辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
そしてついに、
デクランとファティマの結婚式当日。
夜明け前の水平線は、
薄い金色と淡い青が溶け合い、
まるでふたりを祝福するように静かに揺れていた。

アズールティアでは、建国神話になぞらえ、
王族の結婚は“海神への報告”から始まる。
海岸に面した祭壇には、
すでに大勢の国民が集まり、
波の音とざわめきが重なっていた。

鐘が鳴り、儀式が始まる。
ファティマはアズールの象徴である
エメラルド色の薄絹をまとい、
デクランは海神に捧ぐ白銀の式服を着ていた。

ふたりは海岸の神殿から伸びる
“潮路”と呼ばれる桟橋を、
ゆっくりと並んで歩く。

国民たちは手に手に白い貝殻を掲げ、
「海神よ、二人を導き給え!」
と古い言葉で祝福を贈っていた。

波はあまりにも穏やかで、
まるで海そのものが微笑んでいるようだった。

祭司が声高に建国神話を語り始める。
「海神の娘アズールよ。
 あなたが愛した人間の王、そしてあなたが生んだ初代王に、
 この二人の結婚を捧げます。どうか見守り給え。」

ファティマとデクランは、
初代王の血を象徴する“青珊瑚の杯”に海水をすくい、
互いの指先をそっと触れ合わせて杯に落とす。

海水は光をまとって揺らぎ、
青い炎のような輝きを放った。

「この光は、神が二人を受け入れた証。」
祭司がそう宣言すると、
人々がどよめき、大歓声が広がる。
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