辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
姉たちに背中を押されたデクランは、
その足で王と王妃――両親のもとを訪れた。

王は書類に目を通していたが、
デクランの強張った表情を見て眉を上げた。

「どうした、デクラン。珍しく険しい顔をしているな」

「父上。……僕は、ドラゴニア帝国へ赴きたい。
ファティマを救い出さなければ」

室内の空気が、わずかに揺れた。

王妃がそっと息を呑み、
王は静かに椅子から立ち上がる。

「理由を聞こう」

デクランは隠さず全てを話した。
フィロメナから届いた手紙、
ファティマが軟禁されていること、
ドラゴニアの新皇帝クレオールが敵であること――。

話し終えた後、沈黙が落ちた。

それを破ったのは、王妃の柔らかな声だった。

「……あなたがは彼女を愛しているのね」

頬が熱くなるほど、
素直にうなずくしかなかった。

王は深く息を吐き、
ゆっくりとデクランに歩み寄る。
「デクラン。
ドラゴニア帝国は強大だ。相手にするには覚悟がいる」

「覚悟なら、あります。
命を賭けてでも……彼女を守りたい」

その言葉には震えはなかった。
揺らぎのない確かな熱があった。

王は静かに目を細める。
「ならば行け。
アズールティアは武力で帝国に逆らえぬが――
息子が信じた女を見捨てる私たちではない」

王妃もまた、優しい笑顔を向けた。
「気をつけて。
あの子を……必ず連れて帰ってらっしゃい」

デクランの胸が熱くなった。
(……必ず。必ずだ、ファティマ)
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