辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
デクランたちはビンセントの別邸に
“私兵”として潜伏しながら、
来る救出の機会に備えていた。
外の空気はひんやりとして静かだが、
デクランの胸の内は嵐のように落ち着かない。

ファティマに会いたい。
ただそれだけの気持ちが、
緊張と焦燥に拍車をかける。

ビンセントは日々、宮廷の動向を探り、
断片的な情報でも拾おうと奔走していた。

そんなある日の夕刻、
ビンセントが険しい顔で別邸へ戻ってきた。
「……姉上の聖歌院への公務が、中止になった」

部屋の空気が一瞬で張り詰める。

「理由は?」とデクラン。

「不明だ。予定表から丸ごと消えていた。警備の動きから察するに、突然決まったらしい」

聖歌院は唯一、
ファティマの護衛が
比較的手薄になるタイミングだった。
そこを狙うはずだった救出計画は、
完全に振り出しに戻った。

デクランは拳を握り込む。
「……時間がないのに……!」

作戦を練り直さねばならない。
焦りと不安がじわじわと広がり、
一同の表情が重く沈む。
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