辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
その空気を破るように、
別邸の門を叩く音が響いた。

ビンセントが対応に出ると、
そこにはヴァリニア王国の紋章を刻んだ
書簡を持つ使者が立っていた。

「ビンセント殿下に。ヴァリニア国王陛下からのご伝言です」

使者が手渡した封書は、
ずしりと重みを帯びている。
ビンセントが封を切ると、
そこには短く、
しかし決定的な一文が記されていた。

『私が晩餐の席で騒ぎを起こす。その間に為すべきことを為せ。』


場にいた全員の息が止まる。
デクランは思わず顔を上げた。
「……騒ぎを……起こす? 国王自ら?」

しばらく黙っていたビンセントは
はっと顔を上げた。
「姉上の公務が中止となったのは恐らく晩餐会に出席することになったからだ。ヴァリニア国王陛下が“晩餐会にファティマを呼ぶよう”クレオールに要請したにちがいない。……姉上は何度かヴァリニア王国を訪れたことがあるから、当然ヴァリニア国王とも面識がある。」

実は、
ヴァリニア国王はすでに
ファティマの置かれた状況を知っていた。
オルランドから密かに伝えられていたのだ。

“ファティマを救ってあげたい”
その思いひとつで、
彼は国賓としてドラゴニアにわざわざ訪れるのだ。
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