辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
皆がそれぞれ部屋へ引き上げたあと、
ビンセントはひとり地図の前に佇んだ。
姉の笑顔を思い出す。
幼い頃から、自分を優しく導いてくれた、
誰より強く、美しく、聡明な姉。
(……姉上を帝国にこんな形で囚わせてしまうなんて……)
悔しさが胸に込み上げ、拳を強く握る。
それでも、今日だけは崩れられない。
姉を救うため、
絶対に成功させなくてはならない。
「……デクラン、頼むぞ。姉上を託せるのは……もう、お前しかいない」
彼の呟きは、
誰にも聞こえるとことなく、
夜の闇に消えていく。
一方、デクランは———
別邸の庭で、
夜気を胸いっぱいに吸い込んでいた。
冷えた空気の中、
心臓だけが熱く脈打っている。
(明日……ついにファティマに、会えるのか)
緊張と期待と、恐れが入り混じる。
ファティマの触れるような声、
潤んだ瞳、凛とした決意。
何度思い返しても胸が締め付けられる。
「……俺は……彼女を、二度と離したくない」
小さく漏れたその言葉は、
夜の闇に吸い込まれるように消えた。
皆が胸の内で“明日”に備え、
ひたすらに祈るような静寂が続く。
ビンセントは姉を救うため。
デクランは愛する者を手に取り戻すため。
仲間たちは共に戦う仲間を守るため。
そして、遠く離れた王宮でも──
ファティマは知らぬまま、
その日を迎えようとしていた。
ビンセントはひとり地図の前に佇んだ。
姉の笑顔を思い出す。
幼い頃から、自分を優しく導いてくれた、
誰より強く、美しく、聡明な姉。
(……姉上を帝国にこんな形で囚わせてしまうなんて……)
悔しさが胸に込み上げ、拳を強く握る。
それでも、今日だけは崩れられない。
姉を救うため、
絶対に成功させなくてはならない。
「……デクラン、頼むぞ。姉上を託せるのは……もう、お前しかいない」
彼の呟きは、
誰にも聞こえるとことなく、
夜の闇に消えていく。
一方、デクランは———
別邸の庭で、
夜気を胸いっぱいに吸い込んでいた。
冷えた空気の中、
心臓だけが熱く脈打っている。
(明日……ついにファティマに、会えるのか)
緊張と期待と、恐れが入り混じる。
ファティマの触れるような声、
潤んだ瞳、凛とした決意。
何度思い返しても胸が締め付けられる。
「……俺は……彼女を、二度と離したくない」
小さく漏れたその言葉は、
夜の闇に吸い込まれるように消えた。
皆が胸の内で“明日”に備え、
ひたすらに祈るような静寂が続く。
ビンセントは姉を救うため。
デクランは愛する者を手に取り戻すため。
仲間たちは共に戦う仲間を守るため。
そして、遠く離れた王宮でも──
ファティマは知らぬまま、
その日を迎えようとしていた。