辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
何も知らぬファティマは、
公務の一環として控え室に導かれた。 
孤児院への慰問が突然キャンセルになったかと思えば、
晩餐会に出席しろだの、
早く支度をして控室に来いだの。
どんな事情があるのか知らないが
人を振り回しすぎだ。

苛立ちを上手く隠せないまま
控室に到着したファティマ。
そこで彼女を迎えたのは──

懐かしい笑顔を浮かべた エドリック国王 と
たおやかに微笑むエレオノール王妃。

「ファティマ殿……久しぶりだな」

「ヴァリニア国王陛下……王妃陛下……!」

政治の場で見せる鋭さではなく、
かつての親しい友に向ける
穏やかで温かい空気。

ファティマの表情がほどけ、
自然と笑みが零れる。

しかしはっとファティマの表情が曇り、
彼女は国王夫妻に頭を下げた。
「久々のご両人との再会、とても嬉しく思います。ですがその前に、私から謝罪させてください。過日は私の愚弟と愚妹が、王妃陛下の母国に大変な非礼を……お詫びのしようもございません。」

「その件はファティマ様の咎は一切ないのです。彼らのしたことを許すことはできませんけれど、彼らはもう既に神の裁きを受けております。これ以上の謝罪はお控えくださいな。」
「彼らが何をしたにしても、我らとファティマ殿の間の友情は何ら変わらない。顔を上げてほしい。」

国王夫妻からの言葉に
ファティマは改めて深く礼をする。

少ししんみりした空気を変えようとするかのように
エレオノールが優雅に手を伸ばして言った。
「私たちの変わらぬ友情の印といってはなんですけれど。ささやかながら……結婚祝いをご用意しましたの」

美しいリボンで結ばれた箱。
開けるようにとエドリックにも促され、
ファティマが戸惑いつつも蓋を開けた瞬間──
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