辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
クレオールが到着した時、
そこはまさに 戦場の跡 だった。

棚は倒れ、食器は粉々。
紅茶が床一面に広がり、
侍女たちは泣きそうな顔。
兵士たちは揃ってボロボロの傷だらけ。

そして──
ヴァリニア国王夫妻は、
家具を直しながら
涼しい顔でソファに座っていた。

「いやはや、驚きましたな」
エドリックが肩をすくめる。

「突然、何か……小さな小鬼のようなものが現れて、ふと我に返るとこの有様ですわ」
エレオノールも取り乱すでもなく、
いたって冷静だ。

動揺しているのは侍女や兵士で
彼らは口々に叫ぶ。
「は、はい! あのちっこいのが……!」

「耳を噛まれました!!」

「奴ら、信じられない跳躍力で……!」

しかし彼らがどれほど訴えようと
──証拠となる奴らはどこにもいない。

クレオールの顔が怒りで醜く歪む。
ヴァリニア王妃の祖国には
人ならざる摩訶不思議な生物が生息していることは
クレオールも聞き及んでいる。
そいつらを使ったのか。

「ファティマを……捕らえろ!!!!
全軍、王宮内を封鎖し、北門・南門すべて閉じろ!!!
逃がすな!!」

雷鳴のような怒号が宮中に響き渡った。
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