辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る
カーティスは少し声を落とした。
「……どうしようもないくらい好きなんだろ、ファティマ様のこと。」

デクランの肩がびくりと震える。
「……好きだ。
 だが……彼女は“人妻”だ。」

カーティスは鼻で笑った。
「お前、本気であの結婚が成立してると思ってんのか?夫が妻を愛していれば、普通なんとしても奪い返しに来るだろ。ところがだ、あのデブは何もしてねぇ。」

デクランは言葉を失う。

カーティスは手すりにもたれ、星空を見上げた。
「ファティマ様はその夫を愛しているのか?
 身も心も、囚われてたんだよ。そんなの“結婚”なんて言わねえ。」

デクランは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……でも、僕が想いを伝えたところで……何も変わらないだろう?彼女は正義感が強いから、きっと国に戻る。」

「それを決めるのはお前じゃねえ。ファティマ様だ。」

カーティスが横目でデクランを見る。
「お前の“覚悟”次第で、未来なんていくらでも変わる。」

デクランは言い返そうとしたが、
言葉にならなかった。

カーティスは続けた。
「それに……ファティマ様と逃げる時、
 お前、思わず呼び捨てにしたの、覚えてんだろ?」

デクランの顔が真っ赤になる。
「そ、それを言うな……!」

「言うに決まってんだろ。幼馴染だぞ?
 お前が名前を呼び捨てにした時、ファティマ様の顔、恋する乙女そのものだったぜ?そんなのもう好きって言ってるようなもんだろ」
< 94 / 166 >

この作品をシェア

pagetop