俺様御曹司はパイロットになって愛しい彼女を迎えに来る
空はお辞儀だけはいつもみんなに褒められる。頭の角度腰を折る角度手の添え方は、相手に対する気持ちで全然違ってくる。

会社でお客様に最敬礼のお辞儀をするときは一番深く腰を曲げ手もお腹の上に置き組み合わせる。

普通に挨拶のお辞儀はそこまで深くは腰を折り曲げない。ちょっと頭を下げて腰を少し曲げるだけだ。手もお腹ではなく太ももの上でそっと組み合わせるのだ。

でもそれを美しくさりげなくやるのは難しい。そして笑顔も忘れずに心からのほほえみをと教えられた。

空も毎日毎日OJTの間に練習したものだ。そのうち空のお辞儀が一番美しいと言って新人が入るたびに、手本として見せてやれと先輩に言われる。

わざわざ空がいるゲートまでやって来てお辞儀を見せてほしいと言われるのには、ちょっと困ってしまうのだが、NOAのグランドスタッフの中では一番美しくお辞儀をするのが空だと言われている。

だから空の所属する今の三班では、いつも朝一のミーテイングで全員が空を手本にしてお辞儀をするのだ。

その成果か三班の女性スタッフはみんなお辞儀が美しいと言われている。

女将さんに案内されて、個室に設えられた黒の漆塗りのテーブルと椅子に座った。

空は小夜子の横に、その前に会長と雄介が並んで座った。

小夜子の足はかなり良くなったそうだが、でもまだ普通の靴は履けなくて締め付けない柔らかなスニーカーを履いている。

親指に湿布をして横の指を添え木代わりに一緒にテーピングするのだそうだ。“だからスニーカーならはけるようになったのよ“と小夜子は嬉しそうに言った。

腫れが引かないうちは足の先全体に湿布がまかれて、身動きできなかったようだ。

まだ一人では外出できないそうだが、かなり自由が利くようになったと嬉しそうに話してくれた。

「足の親指って大事なのよね。歩くとき一番力を入れてるのが親指なのよ。初めて知ったわ」

「そうなんですね。でも少しでも良くなってよかったです。小夜子さんがおとなしくしているイメージがわきません」

空がそういうと、みんな”確かに”と言って笑っていた。
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