俺様御曹司はパイロットになって愛しい彼女を迎えに来る
「そういえばCAの野崎がすごくしつこくて、海外路線で同じ便になったりするとホテルの部屋まで押しかけて来るんだよな。恋人がいるって言ってるのに…」

「ああ~、野崎さん。隼人と付き合ってるって自分で噂流してるっぽい。こないだたまたま空港の社食で後ろに座っていて一緒にいたCAたちと隼人の事、さも付き合ってる風に話してた。“彼ってさあ、嫉妬深くて困っちゃうの。同じ便のコーパイに告られたって言ったら急に不機嫌になって、機嫌直してもらうのに大変だったんだから”などと、体くねくねさせて宣っておりました」

野崎の物まねしながら話す美空がおかしくて、空も健吾も噴き出してしまったのだが、隼人は頭に来たようで

「くそっ、あいつ今度会ったら文句言ってやる」

「隼人、私は全然気にしないから言わせておけばいいのよ。隼人の恋人が野崎さんだと思われた方が、私にしわ寄せが来なくて助かるわ。それに彼女かなりのベテランだから、CAの中では彼女に物申す人はなかなかいないでしょう。たぶん私たちより二歳くらい年上だよ。美人でスタイルもよくて自分に自信があるんでしょうね」

「なんでだよ。あんなのが恋人なんて思われただけでも気分が悪い」

隼人はそう言って、ビールをグイっとあおった。

その日美空たちが帰った後、キッチンで明日の朝食の準備をしていると後ろから抱き着いてきて、耳をかんだり胸を撫でまわす不埒な手が邪魔をする。

結局、寝室に連れ込まれ明日は早番だと言うのに夜中過ぎまで声がかれるほど哭かされた。

次の日の早番はあくびをかみ殺すのに苦労する一日だった。

同じ班の亜子ちゃんに”空さん体調悪そうですね。大丈夫ですか?”と心配される始末だった。

隼人め、自分は今日の午後便それからの乗務でシドニー向かって一日ステイ後に明日の夜帰ってくるのだ。

それからはゲートで隼人が乗る便の担当になると、必ず”空、行ってくるな“と言って極上の甘いスマイルをぶちかましてくるようになり、ブリーフィングが終わった後などもわざわざ空の担当ゲートまでやって来て”空、先に帰るよ。ご飯だけは炊いておくから“などと同棲を匂わせる言葉まで吐く始末なのだ。

その度にゲート内には衝撃が走り空と隼人が恋人同士であることが、矢のような速さで広まっていった。

空は隼人にいい加減にしてと文句を言ったのだが、それは華麗にスルーして甘いマスクで甘~い言葉に惑わされて、いいようにされてしまっている。
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