もしも生まれ変われるのなら
お母さん。
お母さん!
泣かないで。
私、お母さんのこと恨んでないよ。
だから、自分の子供を殺したのだと自分を責めないで。
深く思い詰めないで。
私ね、冷たく突き放すような声で「堕ろせ」と言ったお父さんのこと好きにはなれないけど、お母さんのことはどう考えたって嫌いになれないよ。
今も覚えている、私に優しく語りかけてくれた落ち着く声。
お腹を摩ってくれた温かい手。
「この子を産みたい」と涙ながらにお父さんに何度も訴えていたこと。
それなのに、お父さんに思いが全く通じなくてこっそり泣いていたこと。
中絶できるのは、妊娠22週未満まで。
そのタイムリミットがありながら、お母さんがギリギリまで悩んだ。
それで、決心した。
専業主婦なお母さんは、私を堕ろし、自分勝手なお父さんともお別れしたいと。
その後は、知らない土地に移住を決め、仕事を探そうと考えていること。
全部、知ってるよ。
だって、私、お母さんのお腹の中でずっと共に過ごしてきたから。
でも、今日でお別れだね……。
お母さんの側から離れるのは寂しいし悲しいけれど、私のこと最後まで愛してくれてありがとう。
私もお母さんのこと好きだよ。
大好きだよ。
だから、お母さん。
私ね、ずっと思っていたことがあるの。
お母さんのことも私のことも大切にしてくれないお父さんのことは忘れて、お母さんが幸せになれる道を進んでほしい。
そして、いつか素敵な男性と出会って、時間と心に余裕ができて子供を産みたいと思った時には、私、もう1度、お母さんの元にやってくるよ。
だから、その時はよろしくね。


