コンビニからはじまる最後の恋
「急ブレーキなんて、怖かったですよね。すみません。帰り道は今まで以上に慎重に運転して、無事に先輩を家まで送ります」
「……ありがとう」

彼の誠実さとまっすぐな想いを向けられて、胸がじんわりと温かくなる。
私をぞんざいに扱う人ばかりじゃない。

(そんな当たり前のことにも気づけなかったんだ……)

優しく走る車の中、少しずつ心の痛みが和らいでいくのを感じた──



マンションの前で車が優しく停止する。
ブレーキを踏む感覚もわからないほど丁寧な運転に、湯川さんがどれだけ私を大切に思ってくれているのかが伝わった。

「送ってくれてありがとう」
「夏葉先輩」

シートベルトを外そうとした私の手に、彼の手がそっと重なる。
その手は少し、震えていた。

「今日……困らせてすみません。でも、俺は本気です」
「結川さん……」
「先輩の過去もこれからも、全部俺が寄り添っていきたい」

ふわりと手が握られる。
壊れないように、傷つけないように……そんな優しい想いが彼の体温とともに流れ込んでくる。


(もう……次の恋に進んでもいいいいのかな……)

彼の温もりはとても居心地がいい。
だからこそ、流されずにしっかり彼の気持ちに向き合いたいと思った。


「……少し、考える時間をくれる?」
「……わかりました。ではCM制作が終わるまで待ちます」
「ありがとう」

名残惜しそうに手が離れ、私は車を降りた。

「先輩」

助手席の窓を開けて、結川さんが微笑む。

「おやすみなさい」
「……おやすみなさい」

窓を閉めて車が走り出す。

あの穏やかな微笑みは、かつて私が知っていた”後輩”の顔じゃない。
でも、柔らかな雰囲気の中に、どこかあの頃のままの真っすぐさが残っている。


──俺じゃだめですか?
──今も……今までもずっと好きなんです。だからもう諦めたくない。

彼の告白の余韻に、胸の奥がじんわりと熱くなった──
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