コンビニからはじまる最後の恋
沈んだ表情をしていたのか、琴音がデザートのプリンを私の前に置く。

「夏葉の気持ち、すごくわかるの。私の場合は奥さんがいたから」
「え」
「不倫相手にされてたのよ、私。くっそーーー!! 気づかなかった自分が悔しい! こんな私でも5年引きずってさー、告白されても誰とも付き合えなかった。怖くて」
「え……知らなかった……」
「5年もあればなんでもできたのにって気づいたら、クズ男のせいでこれ以上時間を無駄に消費したくなくて。落ち込む時間は人それぞれだけど、私は夏葉のこれからを諦めてほしくないの」
「琴音……」
「って、真昼間の社食で言うことじゃないよね。ごめん! 忘れて!」
「無理でしょ、もう。……今度、家飲みしよう。琴音の話、聞くよ」
「聞いて聞いて! でも、私より夏葉だから! もし癒し系の彼に再会したら、頑張って踏み出してみなよ」
「相手を怖がらせないように努力してみる」

(無理にでも前向きになることも大事なのかもしれない。でもそう都合よく会えるのかなあ)



「結川と申します。よろしくお願いいたします」
「……」

(……会えた)

ふわりとしたライトブラウンの髪、黒縁メガネをかけて柔らかく微笑みながら結川颯太と書かれた名刺を差し出すのは、あの夜、コンビニで私を助けてくれた彼だ。


(結川颯太さん……)
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