コンビニからはじまる最後の恋
名刺には取引先の広告代理店の企業名とクリエイティブディレクターの肩書。
今まで担当してくれていた松井さんが、改めて彼──結川さん──を紹介する。

「私が産休に入るため今後は結川が担当になります。アワードの受賞歴もありますし、クリエイティブは問題ありません。安心してなんでも結川にご相談ください」

松井さんの言葉に結川さんが軽く会釈をする。


──次にいつ会えるかわからないですし、学生さんに払わせるわけにはいかないので。
──……。


昨夜、ちょっと不機嫌そうに口を引き結んだその訳を理解する。

(学生に間違えるなんて失礼なことしたな。きちんと謝ろう)

「企画推進部の宮本夏葉と申します。よろしくお願いいたします」

名刺交換をした後、今までの流れと今後の施策について共有するため打合せを進めた。

(琴音に話したら、『絶対誘うべきだから!』って力説されそう)

昨日、初めて出会った人とこうして再び会うなんて、なんだかドラマや映画みたいだと思う。
自分の身に起こるなんて考えてもみなかったし、この先どうにかなるとも思えなかったが、
ほんの少しの非日常が、心なしか私の気持ちを軽くさせた。
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