コンビニからはじまる最後の恋
Story 3
私が任されているプロジェクトは、フルモデルチェンジされる人気SUV車のCM制作だ。
長年愛されてきた人気車種で、フルモデルチェンジのリリース後、SNSでもトレンドにあがるほど注目度が高い。

結川さんはそのCM制作のディレクターを務めてくれるクリエイター。
調べてみると、アワード大賞を何度も受賞していて、映像制作業界で注目の若手クリエイターだった。

「──以上5本が、今回のCMパターンとなります」

制作会議。結川さんがCMの絵コンテについて説明した。
同席しているのは企画推進部と営業部の部長、広報担当と私、そして結川さん。

結川さんの説明に、年配の部長2人が難色を示す。

「うーん、悪くないんだけどどうもなあ……。営業さん、どうですか?」
「車種の魅力は全面的に表現されていていいですね。でも……もっと購買意欲をそそるようなCMがほしい」

(えっ、ちょっと待って!)

部長2人の感想に慌てて手を挙げる。

「すみません、『車の魅力を全面に出してほしい』というお2人のご希望で提案していただいております」
「もちろんその通りで、我々の要望通りだから、そこは及第点なんだけどね」

我が社がオーダーした通りに提案してくれたにも拘わらず、言うだけ楽々な部長たちの発言に冷や汗がでる。
クリエイターがアイデアを形にするまでどれだけ時間を費やしたか!
それを思うと、申し訳なさが込み上げてくる。

「かしこまりました」

それまで何か思案していた結川さんが、静かに口を開く。
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