私は死亡者

美鈴は死んだ

黒い影が玄関の前に立っていた。
ドア越しに伝わる圧が、呼吸を奪う。

私は沙耶の手を引き、そっと玄関から離れた。
足音は、規則正しく扉の向こう側に滞在している。

「美鈴……開けちゃダメ。あいつ、あなたの“死体”を見てた。
何か知ってる……いや、関わってる」

沙耶の声は震えていた。

そのとき、ノック音が突然やんだ。
代わりに、低くくぐもった男の声がした。

「……美鈴。出てきなさい」

私の名を、はっきりと呼んだ。

「死んだ者が、生にしがみつくな。
お前は“戻るべき場所”を間違えている」
< 18 / 95 >

この作品をシェア

pagetop