双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~4
マルセルが目をキラキラさせ、手を握りしめて力説する。
「きょうはまほう学のこうぎなんです! たのしいです」
ロベールが負けじと声を張った。
「そうです! びゅーーんのこうぎです!」
『びゅーん』とは、ロベールが最近覚えた難しめの風魔法のことだ。正式名称は別にあるが、本人はそう言いたいらしい。本格的に王位継承学の講義を受ける時間が増えたふたりだが、今は魔法学の講義が一番のお気に入りだそうだ。
「うれしいねっ」
「たのしみだね!」
楽しそうに笑い合うふたりを見たルイゾン様は不思議そうな声で、私に問いかける。
「魔法学とはそんなに楽しいものだったか?」
王子たちのかわいさのおかげで平常心を保っている私は、ルイゾン様に頷いた。
「楽しいのは先生のおかげですわ。ふたりとも、ドゥルセ先生のこと大好きなんです」
ルイゾン様はちょっと考えてから口にする。
「ああ、ドゥルセ辺境伯の三男か」
私は頷いた。
「はい。魔法学の講義は、ルイゾン様が遠征中に始まりましたものね。ふたりとも、一生懸命励んでいるんですよ」
ルイゾン様はなるほど、というようにふたりを見つめる。
「『武のドゥルセ』にしては珍しく魔法に長けている人物だと交流のある当主から推薦されたのだが、そんなに優秀だったとはな」
ルイゾン様が採用するからには、ドゥルセ家は髪色にこだわない家門なのだろう。
――ロベールとマルセルにピッタリの先生でよかったわ。
私は笑顔で続けた。
「とってもいい先生ですよね。お体が弱くて、魔法理論にのめり込んだとお聞きしました」
ルイゾン様の片方の眉がほんの少しだけピクリと上がる。
「聞いたとは、本人に?」
――さすがだわ。正確な情報かどうか確かめようとされているのね。
「ええ、もちろんですわ」
私は胸を張って答えた。
「……つまりそれほど話し込んだのか?」
「はい。何度か講義を見学しましたので、その時に」
本当は、こっそり木陰から隠れて見ていたのが見つかっただけなのだが、そこは黙っておく。
耳を傾けていたロベールとマルセルが、嬉しそうに会話に加わった。
「ぶのどぅりゅしぇん、わかります!」
「ドゥードゥー先生のことですよね!」
ルイゾン様が目を見開く。
「ドゥードゥー?」
私は笑って付け加えた。
「ドゥルセ先生のあだ名です。『ドゥルセ』をうまく発音できなかったこの子たちに、ドゥードゥーでいいよっておっしゃってくださったんです」
長年『研究』を『けんくう』と発音していたふたりが、ついに研究と言えるようになった矢先だったので、ついつい顔が綻んだ。
――この子たちの言い間違いをかわいいと思ってくれる先生でよかったわ。
職務上仕方がないのだが、家庭教師(ガヴァネス)たちは王子たちの言い間違いを事細かく直そうとする。
ドゥードゥー先生だけが、『ドゥードゥー』は言い間違いではなくあだ名で、風魔法の『びゅーん』も略称だからそのままで構わないと笑ってくれたのだ。その調子で、講義も形式張らず、子ども目線で一緒に楽しみながら魔法を教えてくれている。
ルイゾン様が感慨深い様子で呟いた。
「そうか……討伐で留守にしている間に、ふたりとも頑張っていたんだな」
ロベールとマルセルが即座に返事する。
「はい! がんばってます!」
「わたしだってがんばってます!」
北の魔獣が活発に行動する夏は、ルイゾン様の出番も多い。
帰ってきたらルイゾン様に成果を見てもらおうと励んでいたふたりにとって、こうやって頑張りを主張できるのは嬉しいことだろう。
父と息子のやり取りを微笑みながら見つめていた私は、ふと思い出して言った。
「北の魔獣といえば、ドゥルセ辺境領の辺りは、魔獣の出現率が比較的少ないんですよね」
四方を険しい山に囲まれている我が国は、その山に住み着いている魔獣の被害に悩まされている。だが、その魔獣の存在が、国防の役割を果たしているのも事実だ。
人里に下りてきた魔獣は、ルイゾン様率いる騎士団が討伐するのだが、ドゥルセ辺境領に限っては騎士団が出向く前に、倒される。
――さすが『武のドゥルセ』ね。
ルイゾン様は頷いた。
「そうだな……武力もそうだが、魔法を効率よく使うことで魔獣を倒すんだ」
私は深く納得する。
「ドゥードゥー先生が魔法学に長けている理由がわかりましたわ。実践あってこその理論なのですね」
私の家庭教師だったグラシア先生も、『魔法学は理論だけでは不完全だ。実践も必要だ』と主張していた。家族に虐げられていた私にとって、六歳年上のグラシア先生は数少ない子ども時代の理解者だ。
――お元気かしら。
プルス帝国のアカデミーに留学されているグラシア先生を思い出しながら、カップにそっと口をつける。
そんな私に視線を送っていたルイゾン様が、妙に歯切れが悪い独り言を漏らした。
「ああ、まあ、そうだが……面接の時は可もなく不可もない印象だったが、まさかそんなことが? ……いや、まさか」
どうされましたかと聞く前に、ロベールが弾むように叫ぶ。
「ドゥードゥー先生のこうぎ、とってもたのしいです!」
マルセルも顔を輝かせて続けた。
「はい! わたし、ドゥードゥー先生だいすきです!」
「わたしもすきです!」
「ちがうよ、わたしがすきなんだぞ!」
「わたしだってば!」
張り合っているふたりを見つめながら、ふたりにこれだけ好かれるドゥードゥー先生は教え方がさぞうまいのだろうと考えた。
ロベールの声がさらに高くなる。
「わたしがいちばん、ドゥードゥー先生のことすきなんだ!」
釣られてマルセルも高い声を出した。
「ちがう! わたしがいちばん!」
ルイゾン様の手がピクッと止まる。心なしか口元を引きつらせて呟いた。
「一番……」
ふたりのはしゃぎっぷりがかわいらしくて、思わず私も言い添える。
「今日は私もお邪魔する予定なんです」
片眉を少しだけ上げて、ルイゾン様が問いかけた。
「ジュリアも……? なぜだ」
「きょうはまほう学のこうぎなんです! たのしいです」
ロベールが負けじと声を張った。
「そうです! びゅーーんのこうぎです!」
『びゅーん』とは、ロベールが最近覚えた難しめの風魔法のことだ。正式名称は別にあるが、本人はそう言いたいらしい。本格的に王位継承学の講義を受ける時間が増えたふたりだが、今は魔法学の講義が一番のお気に入りだそうだ。
「うれしいねっ」
「たのしみだね!」
楽しそうに笑い合うふたりを見たルイゾン様は不思議そうな声で、私に問いかける。
「魔法学とはそんなに楽しいものだったか?」
王子たちのかわいさのおかげで平常心を保っている私は、ルイゾン様に頷いた。
「楽しいのは先生のおかげですわ。ふたりとも、ドゥルセ先生のこと大好きなんです」
ルイゾン様はちょっと考えてから口にする。
「ああ、ドゥルセ辺境伯の三男か」
私は頷いた。
「はい。魔法学の講義は、ルイゾン様が遠征中に始まりましたものね。ふたりとも、一生懸命励んでいるんですよ」
ルイゾン様はなるほど、というようにふたりを見つめる。
「『武のドゥルセ』にしては珍しく魔法に長けている人物だと交流のある当主から推薦されたのだが、そんなに優秀だったとはな」
ルイゾン様が採用するからには、ドゥルセ家は髪色にこだわない家門なのだろう。
――ロベールとマルセルにピッタリの先生でよかったわ。
私は笑顔で続けた。
「とってもいい先生ですよね。お体が弱くて、魔法理論にのめり込んだとお聞きしました」
ルイゾン様の片方の眉がほんの少しだけピクリと上がる。
「聞いたとは、本人に?」
――さすがだわ。正確な情報かどうか確かめようとされているのね。
「ええ、もちろんですわ」
私は胸を張って答えた。
「……つまりそれほど話し込んだのか?」
「はい。何度か講義を見学しましたので、その時に」
本当は、こっそり木陰から隠れて見ていたのが見つかっただけなのだが、そこは黙っておく。
耳を傾けていたロベールとマルセルが、嬉しそうに会話に加わった。
「ぶのどぅりゅしぇん、わかります!」
「ドゥードゥー先生のことですよね!」
ルイゾン様が目を見開く。
「ドゥードゥー?」
私は笑って付け加えた。
「ドゥルセ先生のあだ名です。『ドゥルセ』をうまく発音できなかったこの子たちに、ドゥードゥーでいいよっておっしゃってくださったんです」
長年『研究』を『けんくう』と発音していたふたりが、ついに研究と言えるようになった矢先だったので、ついつい顔が綻んだ。
――この子たちの言い間違いをかわいいと思ってくれる先生でよかったわ。
職務上仕方がないのだが、家庭教師(ガヴァネス)たちは王子たちの言い間違いを事細かく直そうとする。
ドゥードゥー先生だけが、『ドゥードゥー』は言い間違いではなくあだ名で、風魔法の『びゅーん』も略称だからそのままで構わないと笑ってくれたのだ。その調子で、講義も形式張らず、子ども目線で一緒に楽しみながら魔法を教えてくれている。
ルイゾン様が感慨深い様子で呟いた。
「そうか……討伐で留守にしている間に、ふたりとも頑張っていたんだな」
ロベールとマルセルが即座に返事する。
「はい! がんばってます!」
「わたしだってがんばってます!」
北の魔獣が活発に行動する夏は、ルイゾン様の出番も多い。
帰ってきたらルイゾン様に成果を見てもらおうと励んでいたふたりにとって、こうやって頑張りを主張できるのは嬉しいことだろう。
父と息子のやり取りを微笑みながら見つめていた私は、ふと思い出して言った。
「北の魔獣といえば、ドゥルセ辺境領の辺りは、魔獣の出現率が比較的少ないんですよね」
四方を険しい山に囲まれている我が国は、その山に住み着いている魔獣の被害に悩まされている。だが、その魔獣の存在が、国防の役割を果たしているのも事実だ。
人里に下りてきた魔獣は、ルイゾン様率いる騎士団が討伐するのだが、ドゥルセ辺境領に限っては騎士団が出向く前に、倒される。
――さすが『武のドゥルセ』ね。
ルイゾン様は頷いた。
「そうだな……武力もそうだが、魔法を効率よく使うことで魔獣を倒すんだ」
私は深く納得する。
「ドゥードゥー先生が魔法学に長けている理由がわかりましたわ。実践あってこその理論なのですね」
私の家庭教師だったグラシア先生も、『魔法学は理論だけでは不完全だ。実践も必要だ』と主張していた。家族に虐げられていた私にとって、六歳年上のグラシア先生は数少ない子ども時代の理解者だ。
――お元気かしら。
プルス帝国のアカデミーに留学されているグラシア先生を思い出しながら、カップにそっと口をつける。
そんな私に視線を送っていたルイゾン様が、妙に歯切れが悪い独り言を漏らした。
「ああ、まあ、そうだが……面接の時は可もなく不可もない印象だったが、まさかそんなことが? ……いや、まさか」
どうされましたかと聞く前に、ロベールが弾むように叫ぶ。
「ドゥードゥー先生のこうぎ、とってもたのしいです!」
マルセルも顔を輝かせて続けた。
「はい! わたし、ドゥードゥー先生だいすきです!」
「わたしもすきです!」
「ちがうよ、わたしがすきなんだぞ!」
「わたしだってば!」
張り合っているふたりを見つめながら、ふたりにこれだけ好かれるドゥードゥー先生は教え方がさぞうまいのだろうと考えた。
ロベールの声がさらに高くなる。
「わたしがいちばん、ドゥードゥー先生のことすきなんだ!」
釣られてマルセルも高い声を出した。
「ちがう! わたしがいちばん!」
ルイゾン様の手がピクッと止まる。心なしか口元を引きつらせて呟いた。
「一番……」
ふたりのはしゃぎっぷりがかわいらしくて、思わず私も言い添える。
「今日は私もお邪魔する予定なんです」
片眉を少しだけ上げて、ルイゾン様が問いかけた。
「ジュリアも……? なぜだ」