双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~4
「ドゥードゥー先生から、魔草の話を聞かせてくれと言われています」
「魔草」
ルイゾン様がポツリと繰り返す。
「はい。魔獣の生息地について教えていただく代わりに、魔草の見分け方をお伝えするのです」
魔草については、王立植物園のバシュレー子爵や、本宮殿で働く人たちに日頃から話している。当然、ドゥードゥー先生にも話していいと思っていたのだが、ルイゾン様はなぜか考え込むような表情で固まっていた。
「そうか、魔草……その方向からは油断していた」
――ルイゾン様に確認すべきだったかしら。
自分の詰めの甘さを反省しながら、素直に謝った。
「申し訳ありません。私だけで事足りる用件だと思ったので、つい」
ルイゾン様が慌てたように答える。
「いや、ジュリアがそんなに沈むことはない。むしろ、今日でよかった」
なぜ今日でよかったのか尋ねる前に、ルイゾン様がふたりに聞いた。
「魔法学の講義はいつも午後からだったか」
ふたりは手を挙げて答える。
「はい!」
「そうです!」
「そうか」
頷いたルイゾン様は、残りのお茶を一気に飲み干して立ち上がった。
「ちょっと、早急に検討しなくてはいけない懸念を思いついた。これで失礼するよ。ロベールとマルセルはまだまだしっかり食べるんだぞ」
ロベールとマルセルは力強く答える。
「わかりました!」
「たくさん食べます!」
――遠征から帰ったばかりですものね。お忙しいんだわ。
それなのにこうやって朝食の時間を取ってくれることに、ほんのりと喜びを感じてしまう。
ルイゾン様との約束を守ったロベールとマルセルは、その日、これまでで一番の量の朝食を誇らしげに完食した。
‡
そして昼食後。
私は約束通り、魔法学の講義にお邪魔するために、中庭に向かった。
木陰が夏の日差しを防いでいる一角に、三人はいた。
いつものように、立ち話をしながら講義を進めているのだ。
邪魔をしないように、ロベールとマルセルの背後からそうっと近付くと、ドゥードゥー先生がこちらに視線を向けて小さく笑う。
メイドのサニタが『とろけるほどカッコいい』と評した笑顔だ。
『武のドゥルセ』出身にしては珍しく、スラリとした体格で背が高いドゥードゥー先生は、王妃宮で働く女性陣に人気だ。
火魔法を象徴するワインレッドの髪は、右が短く左が長いアシンメトリーに揃えられており、洒落た雰囲気が漂っている。
二十四歳という若さで我が国の魔法学の権威に登り詰めているのに、偉ぶったところがないのも、好感度が高い理由のひとつだろう。
ドゥードゥー先生が講義に来る日は皆、どこかソワソワしている。だが、もちろん私はとろけない。
――ルイゾン様の笑顔にならとろけるどころか蒸発してしまいそうだけど……ってそんなことを考えている場合じゃないわ。
三人の会話を聞きたくて、私は近くのイチイの木の陰に隠れた。
それに気付いたドゥードゥー先生が、素知らぬ顔で会話を続ける。
「それでは次の問題です。うさぎ型の魔獣、ラプローの特徴はなんでしょう?」
ロベールが、指先までピンとした手を挙げた。
「はい! ぐるぐるになったツノです」
「そうですね、正解です。螺旋状の角が額の真ん中にあります。では、狼型の魔獣、青狼(アオイー)の特徴は?」
「はい!」
今度はマルセルが伸び上がって手を挙げる。
「けなみが、あおくてきらきらです。きばもおおきいです!」
ドゥードゥー先生は、ワインレッドの髪をかき上げて頷いた。
「はい。よくできました。ラプローも青狼も、ひと目見た途端、こちらを警戒させる特徴があります。ですから、見かけたら逃げることが比較的容易です」
ロベールが首を傾げる。
「ようい……?」
ドゥードゥー先生がふっと笑った。
「ああ、これは失礼。『そんなにむずかしくない』ということです。知らない言葉を知ろうとするのはとてもいいことですよ」
ロベールは目を輝かせて小さく跳ねた。
「ようい、おぼえました! 『そんなにむずかしくないこと』!」
マルセルも一緒に飛び上がる。
「わたしもおぼえました!」
私はひとりで悶えながらその様子を見守っていた。
――わからないことを即座に質問できるなんて! なんてお利口なのかしら!
ドゥードゥー先生は腕を組んで、先を続ける。
「魔力を帯びているのも魔獣の特徴です。ただ、人間のように魔法を使うことはできない。なにかに似ていると思いませんか?」
ロベールとマルセルは同じ方向に首を傾げて、考え込んだ。
「まりょくをおびているのに、まほうをつかえない?」
「なんだろう……」
後ろ姿なので顔が見えないのが残念だが、それでも十分かわいらしい。
――一生懸命なのが伝わるわ! なんて偉いの!
両手を組んで見守っていた私に、ドゥードゥー先生がふっと笑って視線を合わせる。
「ふたりがわからないようだったら、そこにいる王妃殿下に答えていただきましょうか?」
突然登場した私の名前に、ロベールとマルセルが驚いたように振り返った。
「母上!?」
「えっ!? 母上もこうぎに?」
青い瞳に左右から見つめられ、これはこれで至福だと思いつつ私はイチイの木の陰からふたりの間に移動する。
「お邪魔していいかしら?」
「魔草」
ルイゾン様がポツリと繰り返す。
「はい。魔獣の生息地について教えていただく代わりに、魔草の見分け方をお伝えするのです」
魔草については、王立植物園のバシュレー子爵や、本宮殿で働く人たちに日頃から話している。当然、ドゥードゥー先生にも話していいと思っていたのだが、ルイゾン様はなぜか考え込むような表情で固まっていた。
「そうか、魔草……その方向からは油断していた」
――ルイゾン様に確認すべきだったかしら。
自分の詰めの甘さを反省しながら、素直に謝った。
「申し訳ありません。私だけで事足りる用件だと思ったので、つい」
ルイゾン様が慌てたように答える。
「いや、ジュリアがそんなに沈むことはない。むしろ、今日でよかった」
なぜ今日でよかったのか尋ねる前に、ルイゾン様がふたりに聞いた。
「魔法学の講義はいつも午後からだったか」
ふたりは手を挙げて答える。
「はい!」
「そうです!」
「そうか」
頷いたルイゾン様は、残りのお茶を一気に飲み干して立ち上がった。
「ちょっと、早急に検討しなくてはいけない懸念を思いついた。これで失礼するよ。ロベールとマルセルはまだまだしっかり食べるんだぞ」
ロベールとマルセルは力強く答える。
「わかりました!」
「たくさん食べます!」
――遠征から帰ったばかりですものね。お忙しいんだわ。
それなのにこうやって朝食の時間を取ってくれることに、ほんのりと喜びを感じてしまう。
ルイゾン様との約束を守ったロベールとマルセルは、その日、これまでで一番の量の朝食を誇らしげに完食した。
‡
そして昼食後。
私は約束通り、魔法学の講義にお邪魔するために、中庭に向かった。
木陰が夏の日差しを防いでいる一角に、三人はいた。
いつものように、立ち話をしながら講義を進めているのだ。
邪魔をしないように、ロベールとマルセルの背後からそうっと近付くと、ドゥードゥー先生がこちらに視線を向けて小さく笑う。
メイドのサニタが『とろけるほどカッコいい』と評した笑顔だ。
『武のドゥルセ』出身にしては珍しく、スラリとした体格で背が高いドゥードゥー先生は、王妃宮で働く女性陣に人気だ。
火魔法を象徴するワインレッドの髪は、右が短く左が長いアシンメトリーに揃えられており、洒落た雰囲気が漂っている。
二十四歳という若さで我が国の魔法学の権威に登り詰めているのに、偉ぶったところがないのも、好感度が高い理由のひとつだろう。
ドゥードゥー先生が講義に来る日は皆、どこかソワソワしている。だが、もちろん私はとろけない。
――ルイゾン様の笑顔にならとろけるどころか蒸発してしまいそうだけど……ってそんなことを考えている場合じゃないわ。
三人の会話を聞きたくて、私は近くのイチイの木の陰に隠れた。
それに気付いたドゥードゥー先生が、素知らぬ顔で会話を続ける。
「それでは次の問題です。うさぎ型の魔獣、ラプローの特徴はなんでしょう?」
ロベールが、指先までピンとした手を挙げた。
「はい! ぐるぐるになったツノです」
「そうですね、正解です。螺旋状の角が額の真ん中にあります。では、狼型の魔獣、青狼(アオイー)の特徴は?」
「はい!」
今度はマルセルが伸び上がって手を挙げる。
「けなみが、あおくてきらきらです。きばもおおきいです!」
ドゥードゥー先生は、ワインレッドの髪をかき上げて頷いた。
「はい。よくできました。ラプローも青狼も、ひと目見た途端、こちらを警戒させる特徴があります。ですから、見かけたら逃げることが比較的容易です」
ロベールが首を傾げる。
「ようい……?」
ドゥードゥー先生がふっと笑った。
「ああ、これは失礼。『そんなにむずかしくない』ということです。知らない言葉を知ろうとするのはとてもいいことですよ」
ロベールは目を輝かせて小さく跳ねた。
「ようい、おぼえました! 『そんなにむずかしくないこと』!」
マルセルも一緒に飛び上がる。
「わたしもおぼえました!」
私はひとりで悶えながらその様子を見守っていた。
――わからないことを即座に質問できるなんて! なんてお利口なのかしら!
ドゥードゥー先生は腕を組んで、先を続ける。
「魔力を帯びているのも魔獣の特徴です。ただ、人間のように魔法を使うことはできない。なにかに似ていると思いませんか?」
ロベールとマルセルは同じ方向に首を傾げて、考え込んだ。
「まりょくをおびているのに、まほうをつかえない?」
「なんだろう……」
後ろ姿なので顔が見えないのが残念だが、それでも十分かわいらしい。
――一生懸命なのが伝わるわ! なんて偉いの!
両手を組んで見守っていた私に、ドゥードゥー先生がふっと笑って視線を合わせる。
「ふたりがわからないようだったら、そこにいる王妃殿下に答えていただきましょうか?」
突然登場した私の名前に、ロベールとマルセルが驚いたように振り返った。
「母上!?」
「えっ!? 母上もこうぎに?」
青い瞳に左右から見つめられ、これはこれで至福だと思いつつ私はイチイの木の陰からふたりの間に移動する。
「お邪魔していいかしら?」