貴方と奏でる夜想曲 貴女に奏でる小夜曲
まるで“答え合わせ”のようだった。

互いを思い合って奏でるメロディー。

織りなす恋色のハーモニー。

ずっとずっと、答えは出ていたのに。

こんなにもまっすぐ想いを寄せられて、私は何を臆病になっていたのだろう。

ほんとう、自分に自信がないにもほどがある。

今となっては笑い話の、情けない自分。

でも、そんな何もかもが今はひどく愛おしくて、なんだかちょっとくすぐったい。

あったかくて、幸せで、とてもとても満たされている。

そして、やっぱりどうにも気恥ずかしい。

(きっと、今、おんなじ気持ち?)

私はこの上ない幸福感に包まれながら、伸び伸びと大好きなその曲を弾ききった。

そして、彼の感想はというと――。

「あのさ、僕たちって」

「うん?」

「けっこう前から好き同士だった?」

「みたいだよ」

西岡先生の見立てによると、デュオの練習を始めた頃にはもうそうだったらしいし?

「“両片想い”って言うんだって」

「なるほど」

彼は苦笑いしつつ、なんだかとっても楽しそう。

「トンネルは既に開通していたというか、橋は既に架けられていたというか。そもそも、一方通行でも、通行止めでもなかったという話だね」

「だね」

ふたりで顔を見合わせ、やっぱり苦笑い。

それこそ西岡先生から見れば「あいつらなんでまっすぐ行かないの?何故に回り道?」と、さぞ謎だったことでしょう。

「僕、西岡に“おまえの耳、不調みたいだから保坂に診てもらえば?”て言われたんだよね」

「えっ」

「皮肉屋のあいつらしいアドバイスだよね、まったく」

彼は、開けっ放しにしていた楽器ケースにいったんビオラを戻すと、ピアノ椅子に掛ける私の隣に静かに立った。

「前に僕のリクエストで、ラヴェルを弾いてくれた事があったじゃない?」

「『亡き王女――』だね」

「そう」

彼の指が鍵盤に触れ、冒頭の和音をさらりと奏でる。

このピアノらしい、透明感と奥ゆかしい輝き。

ト長調の明るい和音が美しく響く。

「あのとき、とても素敵な演奏だったけど、僕にはなんだかとても切ない音にも聞こえて」

(それは、だって……)

「モモセさんを想って弾いたのかな、って」

(ん? 桃瀬???)

えーと、つまり……亡き王女ならぬ、失くした想い、を切なく儚んで、私が弾いていたと???

「やっぱり“友達が最善”なんて強がっていても、簡単には忘れられないんだろうな、って」

(なんと……)

私ってば、とんだ勘違いをさせて、彼を悩ませたうえ、自分の首をしめていたとは……やれやれ。

心の中で独りごちつつ、私は彼を見上げてけろりと言った。

「ハズレだよ」

「え?」

「でも、忘れられない誰かを想って、というのはアタリかな」

「そうなんだ……」

(もう、そんな悲しそうな顔しないでよ……)

ひょいと立ち上がり、再び彼を愛おしく見上げる。

頭突きと合わせて、私は照れくさい告白をお見舞いした。

「頭の中にずーっと居て、片時も忘れられない誰かさんのことだよ、もう!」

「っと……そうだったの!?」

彼は私を抱きとめると、心底驚いて、ちょっと困ったように微笑んだ。

「まいったな」

「謝らないからね」

(たぶん、私のせいだけど……)

「そりゃあ、僕が勝手に勘違いしただけだし」

「私だって“いい友達”発言はショックだったんだから」

(これも、絶対に私のせい……)

「傷つけてごめん。わざとじゃないけど」

彼の手が私の髪を優しく撫でる。

うっとりするほど気持ちが良くて、ドキドキするのに、癒される。

「自分ばっかり謝らないでよ、もう……」

泣きそうな瞳で見上げる私と、そんな私を愛おしそうに見下ろす彼と。

髪に触れていた手が、そっと肩へ降りてきて、甘い空気にいっそう胸がいっぱいなる。

「瑞樹」

大好きな彼の声が、特別な響きで心に優しい波紋を広げていく。

「このタイミングで名前呼びとか反則だよ……」

「そう?」

「そうだよ」

「じゃあ、やり返してくれてもいいよ?」

「もう……柊のバカ」

そうして、私たちはどちらからともなく、唇を重ねた。
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