彼女が「魔女」であるから
レンリ・クロヴェール
ベルゼ商会会長秘書になってから1週間がたった。
肩書はたいそうなものだが、わたしのしていることはロニーナさんのお茶を用意したり書類整理をしたりで、商会長室から出ることもめったにない。
出ても、
「この書類、会長からです」
「はい」
会話はこれだけ。
ヴェール越しだから誰とも目を合わせない。
誰にも近づかない。
必要なこと以外、話さない。
ゴーン…ゴーン…ゴーン.....
そろそろロニーナさんが帰ってくる頃だ。
彼女の好きなマカロンと紅茶を用意していると、誰かがドアをノックした。
ロニーナさんはいつもノックなどしない。不思議に思いつつも
「どうぞ」
と返事をすると。
「お前、誰だ?ここで何をしている?」
今まで見たこともないほど美しい人間が扉を開けた。
こちらを鋭く見つめる。青色の瞳に、背筋がぞくりとした。
そして、一瞬だった。
首筋に剣を突きつけられる。
ひんやりとした銀色の刃はよくみなれている。
人に恨みを買うような仕事をずっとしてきた。
多額の金銭も要求したし、こうやって刃を向けられるのも一度や二度ではない。
「どこの刺客だ?」
「あの。何か勘違いをなさっているのでは。私はベルゼリリス様付きの秘書です」
「そんな怪しい格好をしておいて、信じられるわけがないだろう」何も言えない。
いつもなら、ロープから少し目を出して終わりだった。
で、魔女の力を使えば、どんな人も私の言うことを聞く。
「でも、本当です」
「口では何とでも言える」
「でも、本当です」
どうしたら信じてもらえる?どうしたら、この剣をどかしてもらえる?
「らちがあかないなら顔を出せ」
顔を出す?この醜い顔を?
孤児院でのことがあったことが頭をよぎった。
また、嫌われてしまう。
「いや、絶対にいや」
「おい動くな。下手に動くとーー」
剣が布を切った。新鮮な空気に包まれて、目が合った。
「……老人?」
長い沈黙があった。いや、おそらくは一瞬だった。けど、私の平穏を破る一瞬だ。
「あぁ~、あの狸親父めぇ~~、もっと金を使えよ金をおおおお!!!」
ロニーナさんが返ってきたことで沈黙は終わった。
「ちょっと、あんたアイズになああああにぃしてんのよーー!!!」