百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
「…………しんっじられない。」
「わ、和果?」
「正二、私ね、浮気現場を見せつけられた時、本当に嫉妬なんて感情すら起きなかったの。ただ別れる前に4年分の同棲代を精算しなきゃってことしか頭になかった。」
「ごめん、本当に、俺が悪かった。」
「さようなら。」
正二の手を強く払い、私も駅へと急ぐ。
信じられない信じられない信じられない信じられないあの人っ!!!
少し距離が空いたところで、後ろから声が聞こえた。
「頼む! 浮気した俺が悪かった! 悪かったから!! だからっ、もう一度―――」
聞こえない、聞こえない、なにも聞こえない。
どんなに復縁を求められたって、絶対に私の気持ちは揺らぎはしない―――
「もう一度俺にお金を貸してほしいんだ!!」
ずーん。
ほら。怒る気にもなれない。
駅で改札を通り、ホームまで来たところでようやく気持ちが落ち着く。
正二が嫌な男でよかった。最後の最後まで最低な男で安心した。これで正二との思い出は全てなかったことにできる。
それよりも百十一さんに対する怒りの方が強い。
あの状況で助けてくれないの!? イライラ、ムカムカ、ギリリ。
あの人、人様の込み入った話に平気で割り込むだけ割り込んできて! なぜさっさと帰るの?! お昼は自分の都合で勝手に私を連れ出しといてこの仕打ち?!!
人事評価に
“思いやり皆無”
“自分勝手”
“自己主張激しい”
“デリカシーも皆無”
“人助けができない”って書いてやる!!
ℳ
「頼む! 浮気した俺が悪かった! 悪かったから!! だからっ、もう一度―――」
ビルの方から男の声が聞こえた。
ヒモが復縁宣言? ははーん。そこまでしてやり直したい? あれと? 女の職場に乗り込んでくる男に拍手の一つでも送るべきか。
「もう一度俺にお金を貸してほしいんだ!!」
油断した。吹きそうになった。
復縁どころか金せびってんじゃねえかヒモ男。なるほど、相当切羽詰まってるってわけか。そら平気で乗り込んでくるわ。
「やばいな越名和果。おもろすぎる。」
復縁宣言されて少しでも越名が揺らぐようなことがあれば、越名に目が覚めるようなセクハラでもお見舞いするつもりだったってのに。
あれじゃヒモ男の圧勝じゃねえか。ネタを本気でやる男の爆誕だ。
「はあ〜〜〜〜」
気付けば足が勝手に来た道を戻っていた。
なんでか居ても立っても居られず、とても金を借りに来たような風貌じゃない男の元に急いでた。
今にも泣きそうな越名の顔がチラつく。
いっそ泣いてたら目の前で助けてやったのに。なんだよ? 俺の顔見た途端のあのシラケ顔。
かわいくねえのにかわいいから困る。
「おい、そこの兄ちゃん、」
「は……、だ、誰ですか、あなたっ」
やけにひょろっちい男の前に立ちはだかってみれば、なんだよ、これじゃ俺がカツアゲしに来たみたいじゃねえか。