百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。

「金借りる相手、間違ってんじゃねえの?」  
  
「え……?」

「金ってのは人の体力と等価でしか得られないもんなんだよ。越名が身ぃ削って稼いだ金、なんで他人のあんたに貸さなきゃなんないの?」

「な……なに? お、俺はっ、彼女の元婚約者で!」
  
「その大義名分みたいな言い方やめろ。いい金になる場所教えてやるから。二度と越名の名前を口にするな。」

ヒモ男を引っ張って大通りまで歩かせる。
 
タクシーをつかまえて、無理矢理タクシーの中に詰め込んだ。 
 
「ちょっ、なッ、」

「すいません。北区のマルイ鉄工所まで。」

「な?! なななんだよそこは! 一体あんた、なんなんですか?!」

「金が欲しいんだろ? それなら汗水垂らして稼いでみ? スーパーよりもずっと稼げるから。」
 
知り合いが指導教官をつとめている、全寮制の鉄工所で一から学んでくりゃあいい。
 
「ちょ?! な、なんで俺がスーパーで働いてたこと知って!」 
 
「1ヶ月で30万は稼げる。」

「……ま、マジですか。」

「ちょっとは行く気になった?」
 
1ヶ月間帰れないけど。
 
自分の名刺と知り合いの名刺を渡せば、半信半疑、俺の顔色をうかがいながらも大人しくなった。

「Web、デザイナー?」

「なに? みえないって?」

「い、いえ……」 
 
俺もずいぶんと暇だねえ。

今日はクライアントの受付嬢に連絡先渡されたから、夜はその子と飲み行こうと思ってたのに。越名の泣きそうな顔見たら行く気うせたわ。

 
 タクシーのモニターには、1ヶ月前に俺が納品したばかりの広告が映っている。

フードデリバリーサイトの広告で、ヒアリングと修正でクライアントとおよそ40往復はした。ランディングページのコピーやコーディングもあるとはいえ、たった1件に発注から寝ず食わずでどれだけ体力使ったと思ってる? 
  
自力で金稼ぐことの意味も知らないやつはいっそ地獄に慣れた方がいい。

 
 1時間は走っただろうか。
 
郊外にある、周りが田んぼだらけの場所にやって来た。
 
でっかい鉄工所の寮の正門で、ヒモ男だけを降ろしてやる。
  
「今すぐあんたの記憶から越名を抹消しろ。できないならもっとすげえ稼げるとこにぶち込んでやる。」

「っ……」

「お。いい顔するじゃん。」

さっきまでブーブー文句垂れてたヒモ男が、俺の言葉に顔をこわばらせた。

「あ、あなたはもしかして。和果の、新しい、彼氏?」

「あの不器用な女がこの俺を堕とせると思ってんの?」    
   
「で、ですよね……。」

「運転手さん、車出して。タクシー代、色つけて払うから。」   
 
いやあ。年のせいか俺もずいぶんと丸くなったもんだ。
  
人様の元カレに職安職員みたいな真似までしてどんな方向性の労力よ。人を正しい道に導こうとするのが気持ちいいとか言っちゃってる神父様か。  
 
スマートウォッチに着信の知らせが入って、スマホを取り出す。

「あー、修多良(しゅたら)? うん、うん。今日の納品うまくいったみたいだわ。」

『マジか、一発OKだったの? よかったじゃん! あそこの広告かなり地味だったし、百十一のお陰で商売上がったりじゃない?』

「そこはSEとプログラマーの運用次第だろ〜。」

そうだ。今回は信じられないことに、デザインした広告の修正がなく、一発承認されたっつーことで夕方、クライアントから連絡がきたのだ。
 
誰かさんが魔法でニンニク臭さを消してくれたおかげかもしれない。 

『それで? あっちの件はどうなの?』

「なに? どの件よ?」

『人事査定の美人さん。』   
 
「ああー。うん。あれね。」

『うまく堕としてる?』

「うーん。まあぼちぼちと?」

『まじかあ〜。なら2万用意しないとなあ〜笑』
 
2万じゃぜんっぜん足んねえわ。 
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