百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
𝒦
「よし。傷心脱出!」
本当の意味で吹っ切れた私は、そろそろ新しいことに目を向けようと思う。
例えば、ハーブを育てるためのガーデニング。色々なスパイスを充実させて料理に使うのもありなんじゃないか。
そうだ、旅行にも行きたい。できれば海外で一人旅。エジプトのスフィンクスと写真を撮りたいな。
お休みの日。ブックカフェで自分の趣味を開拓しようと本を探していたら、カフェの方から男女の不穏な声が聞こえてきた。
「先生、この間は私のこといいっておっしゃってたじゃないですか!」
「はあ。僕はただ、こんな魅力的な奥様がいるのに浮気するなんて、旦那さんは見る目がないって言っただけで、」
「それって完全に誘い文句じゃありません? それなのになぜ私とお付き合いしてくれないんですか!!」
“浮気”というフレーズに敏感な私。つい聞き見を立ててしまう。本を読んでいるふりをして、そっとカフェを盗み見た。
え! 先輩?!
そこには、キラキラした美しい女性と、なんと真木先輩が話をしていた。
「もういいです! そうやって思わせぶりなこといって、先生は女の敵ですよ敵!!」
女性が怒って席を立ち、カフェから出て行ってしまった。
一人取り残され先輩が深いため息を吐く。
どこか落ち着かないのか、何度もネクタイを緩めており、しばらくしてスマホを見始めた。
今のは仕事の話だったのか、プライベートの話だったのか。
込み入った事情につっこむのも申し訳ないため、このまま見なかったことにしようと本屋の奥へと入っていく。
そっか。スポーツも勉強もできて、率先して人助けもできる真木先輩でも、既婚女性ともめることがあるのか。
普段は決して読まない漫画コーナーをなんとなく見ていれば、声をかけられた。
「越名?」
「あっああーーー! これはこれは。真木先輩……!」
私の反応があまりにも分かりやすかったのか、真木先輩が気まずそうに苦笑する。
「もしかして、見られちゃった?」
「ええと。。はい、ごめんなさい。見ちゃいました。」
私が自供したところで、先輩が顔を傾けて言った。
「弁解したいし、一緒にお昼でも食べない?」
先輩とこうして休日に会うのは初めて。
前に、正二の件で相談した時は仕事帰りだった。
「さっきの女性、仕事でうちの事務所に離婚協議書を依頼してきたお客さんなんだよ。」
「そうだったんですね。」
「とにかく話好きな人でさ、あんまりにも話が長いから、こっちも適当に返してただけなんだけど。なんでか気があると思われてたみたいで。」
「なるほど。先輩、人当たりいいですし、印象がいいからかもしませんね。」
「そんなことはないだろ。」
まさか、と爽やかな笑顔をみせる先輩。
同性からも異性からも、先生たちからも好かれていた真木瑛介先輩は、まさに絵に描いたような優秀な生徒だった。
恐縮しているところ悪いですが、実際思わせぶりな行動は多かったですよ、先輩。
同級生や後輩、他の学校の生徒にまで優しかったから、女の子たちはすぐに勘違いして真木先輩に想いを寄せていたのです。