百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
「先輩、誰にでも平等に優しかったですし、」
「そうか? 僕はただ生徒会長になるためにやってただけのことなんだけど。」
「それでもやっぱり、女性は勘違いしますよ。私だってその一人でしたし。」
「そうかなあ。って、……え?」
先輩の手が止まる。
やっぱり、この流れで焼肉ランチはまずかっただろうか?
「ええと。え……? 越名、僕にそんな感じだったの?」
「なにがです?」
「いや、今の。勘違いしたって話……」
「ああ。はい。一緒に生徒会やっていた時、先輩いつも私のこと褒めてくれたじゃないですか。頭を撫でられた時はドキッとして、つい好かれてるんじゃないかって勘違いしそうになったんです。」
「なってはないんだ。」
「そうですね。先輩は誰にでも優しいの知っていましたし。先輩だって、私なんかに勘違いされたら迷惑じゃないですか。」
「いや、まさか! 迷惑だなんて……」
私、あだ名に“箱入り娘”と名付けられるほどの変わりものだったし。男の子たちからは距離を置かれることの方が多かったから。
「って。あれ? ……僕の記憶がおかしいのか?? いや、だって越名、あの時…………」
先輩が額を抑える。突然どうしたのだろう?
「もしかして、頭痛いですか?」
「ある意味そうかも。」
「私、鎮痛剤持ってます!」
バッグからあわてて鎮痛剤を取り出す。薬局で買った小さな箱から錠剤を取り出せば、先輩に手首をつかまれた。
「待って、越名!」
「はい?」
「それ、“生理痛”って書いてある。」
「…………」
錠剤を箱に戻し、そっとバッグにしまう。
どうしよう。まずい、しまった! いつだって完ぺきでスマートな先輩の前でなんという失態を……!
顔が熱くなり、誤魔化すようにカルビとタンを網の上で焼き始める。
カルビの方がやたら分厚い。すぐに薄切りのタンと一緒に焼き始めたことを後悔した。
ほどよい焼き目を静かに待ちながら、香ばしい煙に包まれる。なかなか熱いのが引いていかない。
「越名って、やっぱり面白いよな。」
「す、すみません!」
「あ焼肉のたれ、辛口と甘口どっち?」
「あ、甘口で。」
「そんな恥ずかしがるなよ。僕だってカフェでのやり取り見られて恥ずかしいのに……。」
「……す、すみません。」
先輩と大人しく焼肉を堪能する。カルビもタンも味がよく分からなかった。むしろ甘い焼肉のたれの味がした。
「越名……。覚えてない?」
「……なにがです?」
目を伏せる先輩。なにかを悩んでいるかのように、長いまつげがゆっくりと瞬く。
「越名が、僕に……告白したこと。」
「……え?」
「生徒会室でさ。2人で遅くまで残ってアンケートまとめてた時。」
「……ええと? そんなこと、ありましたっけ。」
「あったんだよ。」
目を白黒させる私。
焼肉の煙が晴れても、ずっと先輩の顔は赤かった。