百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
「ほら。これ。」
「あ。本当ですね。」
「だろ?」
「そっか。すみません。アクセス権限が人事部のネットワークだけになっているせいかもしれません。」
脚を組み、キャスター付きの椅子を半回転させる百十一さん。禁煙パイポをくわえ始めた。
ゆるいニットを着て、デスクには栄養剤の空き瓶やおつまみの袋が散乱している。まるで自分の家かのように過ごしている。
注意すべきかとも思ったけれど、私の不注意でクラウドにアクセスできなかったことを考慮し、注意はしなかった。
とはいえ、やっぱり注意したい気持ちを押し殺すように下唇を噛む。ギリリ。仕方なく百十一さんの前に出て、キーボードに管理者用IDとパスワードを打ち込んだ。
「せっかくだから俺のお膝でも堪能して。」
「きゃっ!」
後ろからお腹に手を回されて、百十一さんの膝の上に乗せられる。
「ちょっ!!」
「まあまあ。ここ俺専用の個室なんだし? 管理者用パス忘れてたお前の失念に免じて、これくらいの無礼講は許してやれって。」
「な、なんてものの言い草! 私のミスがそんなに悪いことですか?!」
「こういう冗談にも慣れた方が色気が出て人生楽しくなるって。」
百十一さんが後ろから片手で私の腰をつかみ、もう片方で禁煙パイポを吸っている。
この適当に扱うような“やっつけ感”。やっぱり! どんな女性にもこんなことをしている証拠なのだろう。
「百十一さん、まさか糸藤課長や他の女性社員にまでこんなことしてないですよね? 人事評価の降格対象ですよ?」
「俺の罪状、個室セクハラ罪? それなら越名は色気皆無の冗談通じないクソ真面目罪だわ。」
「っ……!」
これが冗談だとでもいうの? 冗談で済ませられると思ってるの?!
私のとてつもない形相が暗いデスクトップ画面に映る。
「冗談で済ませられないって? それなら“堅物越名”を“やわらか越名”に変えてやる。」
「離してください! この間は助けてくれなかったくせに!」
「へえ? いつの話? 俺に助けてほしかったの?」
「そういうことじゃなくって!」
「越名、黙って。」
耳元で急に静かな声色でささやかれて、身体が一気に熱くなる。
なぜだか片手で私の口元をふさぎ、片手で私の太ももを撫で始めた。もう百十一さんの行動すべて余すことなく理解できない!
『百十一〜。こないだ一発承認された会社から、やっぱフォントだけ変えてほしいって依頼きてさ〜。』
ドアの外から声が聞こえた。
おそらく、修多良さんの声だ。心肺停止に拍車がかかる。
「はあ〜?! ざけんなよ、フォントをイラストっぽくしてほしいって注文してきたのはそっちだろ?!」
『ちょっと威圧的だから、もっとポップにしてほしいって。』
「具体的には?」
『なんていうの、パステルカラー? 女子的にいうと“ゆるふわ”な感じ?』
百十一さんの手が、スカートの上から太ももを撫で回し、下着のラインをなぞりながら指を往復させる。いうなれば……そう、ゆるふわな感じで。