百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。

脚を固く結んでいるはずなのに、たまに奥の方までぐっと指を入れられて、敏感な部分まで触られそうになる。
 
ギリギリのラインで焦らすようにしながらも、修多良さんとの会話を続けた。 

「具体的な例を画像で送れ。俺にJK仕様のメイク用品広告をデザインさすなよ。」   
   
『百十一ってJKにあしらわれてるとこしか想像できないもんな。』

「うるせーって。」

百十一さんの大きな手が私の太ももをつかむ。百十一さんの指が、熱い。

「んっ」
「しー。」
  
耳元で、『静かにしてね』と言われるかのように息を吹きかけられた。
  
仕事の話をしながら私にセクハラ? 軽率すぎる! 私は百十一さんのおうちに転がってるぬいぐるみじゃない!
 
修多良さんの足音が遠のいていく。

それでも下着のラインを指で這わされ続けた。指戯が少しだけ優しくなる。

「ふう。行った? いったねえ。」

「あのっ。ほんとうに、いい加減にしてくれませんか……?」

ああ。もっと、怒ったように言うつもりだったのに。

声がうわずり、息も絶え絶えに、やけに甘い声が出してしまう。

デスクをつかんで、紅潮した身体を起こそうとする。でもよろめいて、百十一さんの膝上にもう一度座る羽目になった。

「あ、ちょ……今やべえって。」

「!!」

お尻に固いものが当たって、勢いよく跳び上がる。

が、かた、固い……もの……
 
「あ、安心した? 俺のがちゃんと勃って。」 
  
頭がおかしい。やりたい放題。非常識すぎる!! 最低すぎる……。
 
それなのに……今、ちょっとだけフワっとした気持ちになった。どうしてだろう、表現力も著しく低下する。 
 
今、百十一さんが自分で反応してくれたと知って、少し嬉しくなった―――。

あぁぁっぁあああ〜〜〜っっ
 
自分で認めてしまえば、この上ない恥ずかしさ。今にも床に転がって身悶えたい気分……。
 
両手で顔を覆い、よろめきながら部屋を出ていく。身体がガンガン棚に当たった。
 
酸素が薄いなかにいたら、私、窒息しちゃう。個室を出れば、そこには綺麗な空気が広がっていた。
 
ようやく脱出できた。


 「えっ?! 越名さん??」

「あ、修多良さん……。」

あまりにも驚いた様子で私を見つめる、営業部戦略課の修多良さん。パキっとしたオレンジ色のネクタイが、切れ長の細い目元に映えている。

「あれ?? 今、百十一の個室から出てこなかった?」    
 
「えっ……あ、いや、あのっ」

しまったー。個室から出るタイミングを間違えた。途端に顔が熱くなる。

まずい! どうしよう。『百十一さんと2人きりで何してたの?恥ずかしいこと?』って思われても仕方がない!
 
個室の中からは咳払いのような失笑が聞こえてきて、頭の中身が沸騰する。

「そういえば、越名さん。こないだシステム部と飲みに行ったって聞いたけど、他部署の飲み会でも来てくれるの?」 
   
「え……? ああ、あれは糸藤課長にお誘いいただいて、」

「今度もし良かったら、うちの営業部の飲み会にも参加してくださいよ。」 
 
「ええと。でも私なんかいてもお邪魔だろうし……」

「うちの部署、越名さんと話してみたいって人間多いんですよ。忙しくてなかなか他部署の交流とかできないし、」
 
細目の修多良さんに笑顔で言われると、まるでなにかに勧誘でもされているかのような気分になる。キツネにつままれるって感じ?
    
正直、百十一さん同様苦手なタイプ。
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