百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。

 いつか、必ず褒めてもらえると思って頑張ってきた。

お父さんに喜んでもらえるよう、笑顔を見せてもらえるようにと。ずっとお父さんのルールに従ってきた。

周りと比べて厳しい父親だと気づいていても、それでもいつも怒っているようなお父さんを笑わせてあげたかった。
 
でもお父さんが死んで、初めて人とお付き合いして……結婚間近で浮気されて。
 
やっぱり、駄目だった。私の人生にはお父さんがいないと駄目だった。自分で自由に飛び立っても、失敗しか待ち受けていなかったのだ。

正二や百十一さんに『駄目』だと言われたのは、図星だった。
 
 「すみません。身勝手なことをいいました。忘れてください。」
  
「……」

「そうですよね。世間からみれば、私の行動は普通じゃないですよね。百十一さんのおっしゃる通り、引かれて当然です。」

涙があふれて止まらない。それでも給湯室を出ようとする。

でもすぐに腕をつかまれて、百十一さんにキスをされた。

唇が濡れていく。涙のせいじゃない。百十一さんのキスのせいで。

「……ごめん、越名。」

「………あっ…」   
  
「ごめんね。」

もう一度腕を引かれて抱き寄せられて。キスをされた。

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