百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。

「越名さん、そんなに驚くとこだった?」

「い、いえ。申し訳ありません。」

「彼は少々良識を欠く面もあるが、ああみえて人気のWebデザイナーだからね。」  
   
課長からキーを叩く音が聞こえて、自分のタブレット画面にその示唆するものが映し出される。

百十一さんのポートフォリオだ。彼のこれまでの作品や実績を表した、アピールデータのようなもの。

す、すごい。これ、全部百十一さんが作ったの?

色とりどりのバナーや広告が並んでおり、クリックすれば主張の激しいランディングページが表示される。

ホームページ制作にいたってはワイヤーフレームから下層ページといった、事細かなラフ案まで掲載されている。しかも手書き。意外にも字が綺麗で驚く。

威圧的な広告を作るイメージばかりだったのに、高級感のある化粧品やサプリの広告は繊細なものだった。

 
 つい、唇を意識してしまう。先日のキスが頭から離れないのはギャップによるものだ。

百十一さんのイメージからは想像もつかないほど丁寧なものだった。

最初の入り方は強引かもしれないけれど、私に謝るためのキスだったと考えれば百十一さんの不器用な優しさだとも受け留められる。


 関心の目で見つめていれば、下の方までカーソルを下げていったところで、『絶対安全!』という異色のバナーを見つけた。気になってクリックしてみる。

『薄すうす、超極薄0.01ミリ仕様の最強コンドーム!!!!安心しな?絶対絶対大丈夫!』
 
ガクンと首だけ重力が落ちる。百十一さんの評価が雪道をソリで一気に滑るように急降下。


 ミーティング終了後、ビルの1階にある自販機に行くふりをして、百十一さんの様子を見に行く。

今になってなんとなく、勢いで足を踏んでしまったことを謝ろうと思った。

「あのなあ、このデッドラインに別の案件持ってくるなよ!」

「そうはいっても、ホムペ依頼が3件来てるですよ。」 
   
「ホムペ制作舐めんなよ! ヒアリングだけにどれだけ時間取られると思ってる? PSD納品にして別料金とってやる!」
 
「む、無理ですって! どこもJPEGオンリーでって言われてるんですから。」
   
開拓課の営業マン、殿池(とのいけ)さんが必死に百十一さんをなだめている。まだ25才と若いだけあって緊張感のある様子がうかがえる。

隣のシステム部はコーディングに追われているようで、画面に全面集中するためワイヤレスイヤホンをつけていた。   

さあ、入るに入れない状況。案件に追われすぎて、百十一さんはイライラしているみたいだし……。 

「お前、今すぐ栄養剤5本とビーフジャーキーとたばこ買ってこい。」

「ええ〜、百十一さん、禁煙してるっていってませんでした? それに社内は禁煙ですよ?」

「ならたばこ以上に誤魔化しの効く食いもん買ってこい!」    

百十一さんが殿池さんにスマートウォッチを渡す。

どうやら百十一さんのスマートウォッチに入ってる電子決済アプリで買って来いということらしい。貴重品をまるごと他人に……って、どんな押しつけがましいヤクザなの?
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