百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
ってなに言ってるんだか。いちいち落ち込んでる暇があったら私から話しかけにいかないと駄目よ、ダメダメ!
とりあえず名刺入れを出そうと鞄の中を漁る。
でも見当たらず、すぐにジャケットのポケットや胸ポケットを探す。見当たらない。顔面蒼白になる。ど、どうしましょう……
もしかして、どこかに落とした?!
確かに鞄に入れたはず! ということは、百十一さんの車に落としたのだろうか?
まずいな。もう百十一さんのところの講演会は開催時間過ぎてるし……
「あ、あの。わたし、まだ新卒なんですが、よければ。ご挨拶させてもらってもいいでしょうか?」
「え、私、ですか?」
「は、はい! このテーブル、女性が二人しかいませんし。今日は一日仲良くできたらなと思いまして、」
シワも折り目もないグレーのスーツに身を包む女性。ついでにお肌もぷりぷりで、スーツも本人も実に若そうだ。自分に話しかけてくれたことに驚く。
「あ、あの、よければ、名刺交換していただいても、」
「あ、すみません。せっかくお声がけ頂いたのに。私の不注意で、名刺入れを失くしてしまって、」
まだ新卒だと言っていた。ここには一人で来ているようだし、私に話しかけること自体、相当な勇気がいっただろう。
それなのに、なんと不甲斐ないのか。人事部に勤めて早6年。先輩である私が、名刺入れを失くすなんて……
なんともいたたまれない気持ちにな―――
「初めましてー。越名和果28才、BKG人事部査定部門に勤めて早6年。人には菩薩如来なんて言われたりもしますが、こう見えて実は天真爛漫な女の子だったりします。」
「も、百十一さん?! どこから湧いて、」
「どうぞよろしくね?」
いつの間に会場内に入ってきたのか。百十一さんが、新卒の女の子に私の名刺を差し出した。
なんというか、指に挟んで、まるで怪盗でもあるかのように私の名刺を渡した。
「じゃあ。ということなんで。」
「いや、あの、百十一さん!」
「なに? これ、車のシートに落ちてたよ。」
百十一さんが私に名刺入れを渡してくれる。百十一さんの息が、荒い。胸が浮き沈みを繰り返しているのがわかる。
ガラス張りになっている上部を見上げれば、4階からこちらを見ている人がいた。
「なんで、車に戻ったんですか?」
「俺も筆記用具忘れたから。」
「ひ、筆記用具って。小学生じゃないんだから。」
思わず笑いがこぼれて、胸の奥にぽわんとまあるい陽がともる。
もしかして、4階からこの会場を見て、私が鞄の中を必死に探していることに気がついて、それでわざわざ車の中を探しに行ってくれたんじゃ……
「じゃあ。俺行くわ。」
「あ、あの、ありがとうございました! 講演会、頑張ってください!」
「おう。越名もな。」
ゆっくり、じんわり胸の奥が熱くなっていく。私今、どれだけ恥ずかしい顔してる?
「すごい面白い方ですね。越名さんと同じ会社の方ですか?」
「あ、はい! うるさくしてごめんなさい。」
「いえ、そんな。なんというか、越名さんを見守る王子様という感じで。素敵です。」
「え、ええ! あれが、王子ですか?」
「はい。4階からずっと見ている人がいるなあと思っていたんです。越名さんのことを見ていたんでしょうね。」
「み、見られてたんですか、私。」
「はい。けっこう、じっくりと。」
新卒の女の子の名前は、笹原さんというらしい。彼女は人事コンサルティング会社の社員で、人事という接点から意気投合した。
「真木行政書士事務所の、真木瑛介と申します。」
「え、行政書士さん?! 独立されてるんですか?」
「ええ。父が代表を勤めていまして、」
「すごいですね。」
リーダシップを切る真木先輩のおかげで、私たちのテーブルはスムーズに事を進めることができた。
意見をまとめる統率力は顕在で、果たして自分が力になれたかどうか。
でも百十一さんのおかげで、他にも何名かと名刺交換することができた。
とりあえず名刺入れを出そうと鞄の中を漁る。
でも見当たらず、すぐにジャケットのポケットや胸ポケットを探す。見当たらない。顔面蒼白になる。ど、どうしましょう……
もしかして、どこかに落とした?!
確かに鞄に入れたはず! ということは、百十一さんの車に落としたのだろうか?
まずいな。もう百十一さんのところの講演会は開催時間過ぎてるし……
「あ、あの。わたし、まだ新卒なんですが、よければ。ご挨拶させてもらってもいいでしょうか?」
「え、私、ですか?」
「は、はい! このテーブル、女性が二人しかいませんし。今日は一日仲良くできたらなと思いまして、」
シワも折り目もないグレーのスーツに身を包む女性。ついでにお肌もぷりぷりで、スーツも本人も実に若そうだ。自分に話しかけてくれたことに驚く。
「あ、あの、よければ、名刺交換していただいても、」
「あ、すみません。せっかくお声がけ頂いたのに。私の不注意で、名刺入れを失くしてしまって、」
まだ新卒だと言っていた。ここには一人で来ているようだし、私に話しかけること自体、相当な勇気がいっただろう。
それなのに、なんと不甲斐ないのか。人事部に勤めて早6年。先輩である私が、名刺入れを失くすなんて……
なんともいたたまれない気持ちにな―――
「初めましてー。越名和果28才、BKG人事部査定部門に勤めて早6年。人には菩薩如来なんて言われたりもしますが、こう見えて実は天真爛漫な女の子だったりします。」
「も、百十一さん?! どこから湧いて、」
「どうぞよろしくね?」
いつの間に会場内に入ってきたのか。百十一さんが、新卒の女の子に私の名刺を差し出した。
なんというか、指に挟んで、まるで怪盗でもあるかのように私の名刺を渡した。
「じゃあ。ということなんで。」
「いや、あの、百十一さん!」
「なに? これ、車のシートに落ちてたよ。」
百十一さんが私に名刺入れを渡してくれる。百十一さんの息が、荒い。胸が浮き沈みを繰り返しているのがわかる。
ガラス張りになっている上部を見上げれば、4階からこちらを見ている人がいた。
「なんで、車に戻ったんですか?」
「俺も筆記用具忘れたから。」
「ひ、筆記用具って。小学生じゃないんだから。」
思わず笑いがこぼれて、胸の奥にぽわんとまあるい陽がともる。
もしかして、4階からこの会場を見て、私が鞄の中を必死に探していることに気がついて、それでわざわざ車の中を探しに行ってくれたんじゃ……
「じゃあ。俺行くわ。」
「あ、あの、ありがとうございました! 講演会、頑張ってください!」
「おう。越名もな。」
ゆっくり、じんわり胸の奥が熱くなっていく。私今、どれだけ恥ずかしい顔してる?
「すごい面白い方ですね。越名さんと同じ会社の方ですか?」
「あ、はい! うるさくしてごめんなさい。」
「いえ、そんな。なんというか、越名さんを見守る王子様という感じで。素敵です。」
「え、ええ! あれが、王子ですか?」
「はい。4階からずっと見ている人がいるなあと思っていたんです。越名さんのことを見ていたんでしょうね。」
「み、見られてたんですか、私。」
「はい。けっこう、じっくりと。」
新卒の女の子の名前は、笹原さんというらしい。彼女は人事コンサルティング会社の社員で、人事という接点から意気投合した。
「真木行政書士事務所の、真木瑛介と申します。」
「え、行政書士さん?! 独立されてるんですか?」
「ええ。父が代表を勤めていまして、」
「すごいですね。」
リーダシップを切る真木先輩のおかげで、私たちのテーブルはスムーズに事を進めることができた。
意見をまとめる統率力は顕在で、果たして自分が力になれたかどうか。
でも百十一さんのおかげで、他にも何名かと名刺交換することができた。