百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
研修会が終わり、先輩が会社まで送ってくれるというのでお言葉に甘えることにした。
「久々に越名と一緒に仕事ができたみたいで楽しかったよ。」
「はい。なんだか生徒会の時のことを思い出しちゃいますね。」
「越名の仮定法で深堀りしていくあの感じ、やっぱりさすがだなって思った。」
「いえ。私はリスクばかりにとらわれて、なんでも話を大きくしがちなんですよ。」
エレベーターで地下駐車場に降りれば、先輩の高級車に目を見張る。
「え! 先輩の車、これですか? すごい高級車ですよね。」
「そんなことないよ。あ、助手席乗って。」
「失礼します。」
そういえば、百十一さんはもう帰っただろうか? つい百十一さんの車を確認してしまう。
まだ会場にいるらしい。クライアントの担当者につかまって話し込んでいるのかもしれない。
「さっきの、同じ会社の人?」
「はい?」
「ほら、勝手に越名の名刺渡してた、茶色いスーツの人。」
「ああ、はい。百十一さんはうちのWebデザイナーなんです。」
「前に越名が酔いつぶれたかなんかで、駅まで抱きかかえられてたよね?」
そういえば。システム部の飲み会のことを思い出す。何年かぶりかの飲み会で、ついビールを飲みすぎてしまったんだっけ。
先輩に見られてたのか。。なんたる失態。
「恥ずかしながら。あまりに久々の飲み会だったもので、羽目を外してしまいまして。」
「ふうん。越名がめずらしいね。」
「そうですよね。普段お酒は最初の1杯だけって決めてるんですけど。」
「うん。越名は駄目だよ? ああいう男のいる飲み会に行っちゃ。勘違いさせるだけだし。」
「え? 勘違い?」
ふと、ハンドルを握りしめる先輩の手に力が込められているのがわかった。綺麗な手なのに、青い血管が浮き出ている。
私の方は見ず、笑顔で話を続ける。
「こないだ、焼き肉ランチした時に言ったじゃん。僕、高校の時、越名に告白されたって。」
「……」
「文化祭の打ち上げでさ、越名、僕に甘えて『好き』とか、『付き合ってほしい』って言ってきたの、覚えてない?」
「……おぼえていません。」
「うん。」
「ごめんなさい。」
車のスピードが速くなる。
メーターをみれば、法定速度ぎりぎりを指している。遠くに青から赤信号に切り替わるのが見える。
「あの。先輩。さすがに速すぎませんか?」
「なにが?」
「車のスピードです。」
「今、僕さ、君に告白された話してるんだよね。」
「はい。」
「でも君は覚えてないって言ったよね。」
「はい。覚えていません。」
「あの時、僕は真面目に告白だと受け取って『いいよ』って返事したのに。」
「え?」
「それから恋人らしい素振りもないし、こっちから連絡しても素っ気ないし。本当に付き合ってたかどうかすら分からずそのまま終わった事も覚えてないってことなんだよね?」
「ええと、そんなことが?」
「あったんだよ!!」
赤信号ギリギリのところで急ブレーキが踏まれる。
でも私は自分の頭が大きく振られないよう、身体を畳んで頭を両手でしっかりと支えた。ああ、これは飛行機の安全体勢だったかもしれない。
「先輩、一旦路肩に停車しましょう。きっとお疲れなんですよ。」
先輩の様子がおかしい。栄養剤の飲みすぎ? なにかの薬の副作用かもしれない。
「大丈夫ですか? どこかコンビニに入った方がいいかもしれません。お水を買いましょう。」
「いや、いいよ。いらない。」
「そう、ですか……。」
ごめんなさい、先輩。私にはどれだけ思い出そうとしても思い出せないんです。
お父さんの言いつけを守ることに精一杯だったから。もし、本当に私が忘れているだけで、先輩に酷いことをしてしまったのなら。私はどう罪を償えばいいのでしょう?
「久々に越名と一緒に仕事ができたみたいで楽しかったよ。」
「はい。なんだか生徒会の時のことを思い出しちゃいますね。」
「越名の仮定法で深堀りしていくあの感じ、やっぱりさすがだなって思った。」
「いえ。私はリスクばかりにとらわれて、なんでも話を大きくしがちなんですよ。」
エレベーターで地下駐車場に降りれば、先輩の高級車に目を見張る。
「え! 先輩の車、これですか? すごい高級車ですよね。」
「そんなことないよ。あ、助手席乗って。」
「失礼します。」
そういえば、百十一さんはもう帰っただろうか? つい百十一さんの車を確認してしまう。
まだ会場にいるらしい。クライアントの担当者につかまって話し込んでいるのかもしれない。
「さっきの、同じ会社の人?」
「はい?」
「ほら、勝手に越名の名刺渡してた、茶色いスーツの人。」
「ああ、はい。百十一さんはうちのWebデザイナーなんです。」
「前に越名が酔いつぶれたかなんかで、駅まで抱きかかえられてたよね?」
そういえば。システム部の飲み会のことを思い出す。何年かぶりかの飲み会で、ついビールを飲みすぎてしまったんだっけ。
先輩に見られてたのか。。なんたる失態。
「恥ずかしながら。あまりに久々の飲み会だったもので、羽目を外してしまいまして。」
「ふうん。越名がめずらしいね。」
「そうですよね。普段お酒は最初の1杯だけって決めてるんですけど。」
「うん。越名は駄目だよ? ああいう男のいる飲み会に行っちゃ。勘違いさせるだけだし。」
「え? 勘違い?」
ふと、ハンドルを握りしめる先輩の手に力が込められているのがわかった。綺麗な手なのに、青い血管が浮き出ている。
私の方は見ず、笑顔で話を続ける。
「こないだ、焼き肉ランチした時に言ったじゃん。僕、高校の時、越名に告白されたって。」
「……」
「文化祭の打ち上げでさ、越名、僕に甘えて『好き』とか、『付き合ってほしい』って言ってきたの、覚えてない?」
「……おぼえていません。」
「うん。」
「ごめんなさい。」
車のスピードが速くなる。
メーターをみれば、法定速度ぎりぎりを指している。遠くに青から赤信号に切り替わるのが見える。
「あの。先輩。さすがに速すぎませんか?」
「なにが?」
「車のスピードです。」
「今、僕さ、君に告白された話してるんだよね。」
「はい。」
「でも君は覚えてないって言ったよね。」
「はい。覚えていません。」
「あの時、僕は真面目に告白だと受け取って『いいよ』って返事したのに。」
「え?」
「それから恋人らしい素振りもないし、こっちから連絡しても素っ気ないし。本当に付き合ってたかどうかすら分からずそのまま終わった事も覚えてないってことなんだよね?」
「ええと、そんなことが?」
「あったんだよ!!」
赤信号ギリギリのところで急ブレーキが踏まれる。
でも私は自分の頭が大きく振られないよう、身体を畳んで頭を両手でしっかりと支えた。ああ、これは飛行機の安全体勢だったかもしれない。
「先輩、一旦路肩に停車しましょう。きっとお疲れなんですよ。」
先輩の様子がおかしい。栄養剤の飲みすぎ? なにかの薬の副作用かもしれない。
「大丈夫ですか? どこかコンビニに入った方がいいかもしれません。お水を買いましょう。」
「いや、いいよ。いらない。」
「そう、ですか……。」
ごめんなさい、先輩。私にはどれだけ思い出そうとしても思い出せないんです。
お父さんの言いつけを守ることに精一杯だったから。もし、本当に私が忘れているだけで、先輩に酷いことをしてしまったのなら。私はどう罪を償えばいいのでしょう?