百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
あの、王子様のような、生徒会長だった先輩に告白されるなんて。
頭の中身がうまく整理できない。
だって私は、文化祭の打ち上げで先輩に告白したことになっていて、でも恋人らしいこともなく自然消滅していて。それなのに先輩は、私のことを疎ましく思っているわけじゃない?
そんなことよりも。つい最近、百十一さんと一夜を共にしてしまったこともまだ消化できていないのに告白を受けていることが大問題だ!
まだ返事をすることができない。どう返事をすべきか、考える時間がほしい。
「あの。まさか告白されるとは思っていなくて。少し。少しだけお時間を頂けませんか。」
「そう、だよね。いきなり言われてもって感じだよね。ごめんね。ゆっくり考えて。」
「あ、ありがとうございます。」
私と真木先輩が、付き合う? そんなことがあってもいいの? あまりに非現実的な気がする。
「越名、」
「あ、はい、」
「過去の精算をしてほしいとか、そんなことを言ってるわけじゃないから。」
「え?」
「ただあの時、越名に告白されて本当に嬉しかったし。勝手に舞い上がってたんだよ僕。」
「…………」
「不完全燃焼のまま終わったこと、僕が勝手に後悔してるだけだから。全然断ってくれてもいいから。」
まだ顔の赤い先輩が、私の髪を撫でてくれる。額にキスをされた。
「あっ、あのっ」
「おやすみ。」
車に乗り込んで帰っていった。最後まで優しい先輩のままだった。
嬉しい。嬉しいけれど。
煮え切らない自分がいる。
先輩、もしかしてずっと前から不完全燃焼だったのかな……。
真木先輩をそうさせてしまったのは、私のせいなの?
ℳ
昼休憩。修多良と近場のラーメン屋で昼飯を食っている最中。俺は気になって気になって仕方がないことをずっと調べていた。
俺は最近、打ちのめされたボクサーのように覇気がない。
「ねえ百十一くん百十一くん、」
「んあ? 呼び方キモいよ?」
「白濁の鶏白湯食べながらエロのHow toサイト見るのやめてくんない?」
「ぇあ? ああ、悪ぃ。」
「前からずっと言おうと思ってたんだけど、お前、人としてサイテーだよ。」
しまった。しかもここカウンター席だった。つい気になりすぎて、スマホで女のイかせ方調べながら白濁のラーメン食ってた。
だってもう信じられないんだよ何もかもが。あの“百十一百式”が通用しない女がいるなんて……。
ラーメンから涙の味がする。塩味が強くて高血圧になりそう。
「そういやこないだの課内ミーティングで、人事から越名さんがオブザーバーとして参加したんだけど、」
「へー」
「百十一がコピーライターも兼任してるって初めて知ったみたいで、相当驚いてたよ。」
「おいおい。人事なんだから把握しとけよ。」
「百十一の雇われ方は特殊だからね。越名さんは関与してないんでしょ。」
「でも見てりゃわかるだろ。同じ職場で働いてんだぞ?」
「評価する意外に興味なかったんでしょ。いや、むしろあんま関わりたくなかったんじゃない?」
マジすか。外見とセックスだけが取り柄のこの俺が? へこむわー。
ようやく俺に心と身体開いてくれたと思ったら、最後あれだもんなー。勝手に一人で触ってイきやがって。はあ? 俺の立場は? いやあれはあれでエロかったけど。とはいえ全く納得できん!
「あと学生派遣の件、無事稟議が通ったよ。」
「おお。開拓課と戦略課とシステム部に根回ししといた甲斐あったな。」
「上手く上司らを誘導した俺のお陰ね。特に糸藤課長。」
「言い方がゲスいんだよ。吉井田にうまく取り入った俺のお陰だろ?」
「ああ、そうだったね。」
「このラーメンおごれ。」
修多良が、財布の中身を俺に見せてくる。どうやら現金の持ち合わせがないらしい。
「ここ電子マネー使えないことすっかり忘れてたからムリ。」
「あそう。」
「あと、越名さんが百十一と吉井田さんの関係、気にしてたよ?」
「それってどういう意図で?」
「そりゃあ嫉妬でしょ。」
「なんで?」
スープまでしっかりとレンゲだけで飲み干した修多良が、手拭きで口を拭いて言った。
「越名さんが堕ちてる証拠じゃない?」
「うっっそ! マジで?!」
ガタリと椅子を鳴らした俺に、客たちの視線が一斉集中する。かなり嫌そうな目を向けられた。でも俺のメンタルはウナギ登りだ。
会社に帰れば、そらもう仕事が捗った。
うちに依頼してきたクライアントとの打ち合わせも、いくらでも俺は相手の主張に合わせた骨組みを作れた。
クライアント2人と修多良と俺がいるミーティングルームで、修多良のヒアリングを黙って聞きながらワイヤーフレームを作っていく俺は大変お利口だった。
「まず集客にはペルソナ設定を決めることが決め手となりますが、どういった世代の集客を見込まれていますか?」
「うちは生活雑貨や食品、衣類と幅広い分野を展開しておりますが、シンプルが売りですので。まあ、そうですね。少し上の世代なのかなと。」
“シンプル”と“生活用品”に焦点を当て、シャーペンで簡単なロゴを形作っていく。
頭の中身がうまく整理できない。
だって私は、文化祭の打ち上げで先輩に告白したことになっていて、でも恋人らしいこともなく自然消滅していて。それなのに先輩は、私のことを疎ましく思っているわけじゃない?
そんなことよりも。つい最近、百十一さんと一夜を共にしてしまったこともまだ消化できていないのに告白を受けていることが大問題だ!
まだ返事をすることができない。どう返事をすべきか、考える時間がほしい。
「あの。まさか告白されるとは思っていなくて。少し。少しだけお時間を頂けませんか。」
「そう、だよね。いきなり言われてもって感じだよね。ごめんね。ゆっくり考えて。」
「あ、ありがとうございます。」
私と真木先輩が、付き合う? そんなことがあってもいいの? あまりに非現実的な気がする。
「越名、」
「あ、はい、」
「過去の精算をしてほしいとか、そんなことを言ってるわけじゃないから。」
「え?」
「ただあの時、越名に告白されて本当に嬉しかったし。勝手に舞い上がってたんだよ僕。」
「…………」
「不完全燃焼のまま終わったこと、僕が勝手に後悔してるだけだから。全然断ってくれてもいいから。」
まだ顔の赤い先輩が、私の髪を撫でてくれる。額にキスをされた。
「あっ、あのっ」
「おやすみ。」
車に乗り込んで帰っていった。最後まで優しい先輩のままだった。
嬉しい。嬉しいけれど。
煮え切らない自分がいる。
先輩、もしかしてずっと前から不完全燃焼だったのかな……。
真木先輩をそうさせてしまったのは、私のせいなの?
ℳ
昼休憩。修多良と近場のラーメン屋で昼飯を食っている最中。俺は気になって気になって仕方がないことをずっと調べていた。
俺は最近、打ちのめされたボクサーのように覇気がない。
「ねえ百十一くん百十一くん、」
「んあ? 呼び方キモいよ?」
「白濁の鶏白湯食べながらエロのHow toサイト見るのやめてくんない?」
「ぇあ? ああ、悪ぃ。」
「前からずっと言おうと思ってたんだけど、お前、人としてサイテーだよ。」
しまった。しかもここカウンター席だった。つい気になりすぎて、スマホで女のイかせ方調べながら白濁のラーメン食ってた。
だってもう信じられないんだよ何もかもが。あの“百十一百式”が通用しない女がいるなんて……。
ラーメンから涙の味がする。塩味が強くて高血圧になりそう。
「そういやこないだの課内ミーティングで、人事から越名さんがオブザーバーとして参加したんだけど、」
「へー」
「百十一がコピーライターも兼任してるって初めて知ったみたいで、相当驚いてたよ。」
「おいおい。人事なんだから把握しとけよ。」
「百十一の雇われ方は特殊だからね。越名さんは関与してないんでしょ。」
「でも見てりゃわかるだろ。同じ職場で働いてんだぞ?」
「評価する意外に興味なかったんでしょ。いや、むしろあんま関わりたくなかったんじゃない?」
マジすか。外見とセックスだけが取り柄のこの俺が? へこむわー。
ようやく俺に心と身体開いてくれたと思ったら、最後あれだもんなー。勝手に一人で触ってイきやがって。はあ? 俺の立場は? いやあれはあれでエロかったけど。とはいえ全く納得できん!
「あと学生派遣の件、無事稟議が通ったよ。」
「おお。開拓課と戦略課とシステム部に根回ししといた甲斐あったな。」
「上手く上司らを誘導した俺のお陰ね。特に糸藤課長。」
「言い方がゲスいんだよ。吉井田にうまく取り入った俺のお陰だろ?」
「ああ、そうだったね。」
「このラーメンおごれ。」
修多良が、財布の中身を俺に見せてくる。どうやら現金の持ち合わせがないらしい。
「ここ電子マネー使えないことすっかり忘れてたからムリ。」
「あそう。」
「あと、越名さんが百十一と吉井田さんの関係、気にしてたよ?」
「それってどういう意図で?」
「そりゃあ嫉妬でしょ。」
「なんで?」
スープまでしっかりとレンゲだけで飲み干した修多良が、手拭きで口を拭いて言った。
「越名さんが堕ちてる証拠じゃない?」
「うっっそ! マジで?!」
ガタリと椅子を鳴らした俺に、客たちの視線が一斉集中する。かなり嫌そうな目を向けられた。でも俺のメンタルはウナギ登りだ。
会社に帰れば、そらもう仕事が捗った。
うちに依頼してきたクライアントとの打ち合わせも、いくらでも俺は相手の主張に合わせた骨組みを作れた。
クライアント2人と修多良と俺がいるミーティングルームで、修多良のヒアリングを黙って聞きながらワイヤーフレームを作っていく俺は大変お利口だった。
「まず集客にはペルソナ設定を決めることが決め手となりますが、どういった世代の集客を見込まれていますか?」
「うちは生活雑貨や食品、衣類と幅広い分野を展開しておりますが、シンプルが売りですので。まあ、そうですね。少し上の世代なのかなと。」
“シンプル”と“生活用品”に焦点を当て、シャーペンで簡単なロゴを形作っていく。