百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
「おいお前、俺が堕としたら2万だっていってた癖に! なんで殿池は3万なんだよ?」

「あのねえ。2万って言い出したのは百十一の方でしょ? そもそもこのゲームの言い出しっぺは百十一じゃん。」

「あのなあ。」

いやいや。2万とか3万とかどっちでもいんだよ。もしマジで殿池が堕としたら。てめえ、俺のプライドと骨拾ってくれるんだろうなあ?!
   
「こんなこと人事に聞かれたら評価が地獄行きですよ? 僕を巻き込むのは勘弁してください。」   

「は、はは……殿池にはぜってームリムリ。でも連絡先くらい聞けたら3千円やってもいいけど?」

「はあ。百十一さんと修多良さんがいうと冗談に聞こえないから怖いんですよね。」

ふざけんなよ修多良! 余計なこと言ってんじゃねえよ! ゲームなんて俺の中じゃとっくの昔に終わってるわ。

でも綺麗な越名とヤったこと、死んでも自慢はできないし。俺と一夜を共にしたなんて言えば、越名の評判が下がるだけだもんな。

もうさっさと正式に付き合っといた方が、越名のためにもいいんじゃね? 俺が越名に告白したらドン引きされそうだけど。       


𝒦


 たまたまシステム部に用があって、百十一さんのいる事務室の前を通り過ぎた時だった。

『おいお前、俺が堕としたら2万だっていってた癖に! なんで殿池は3万なんだよ?』

『あのねえ。2万って言い出したのは百十一の方でしょ? そもそもこのゲームだって百十一の提案じゃん。』

『あのなあ。』

百十一さんと、修多良さんの声が聞こえてきた。

シュババッ。聞き覚えのある『2万』発言に、壁に張り付いて聞き耳を立てる。

『は、はは……殿池にはぜってームリムリ。でも連絡先くらい聞けたら3千円やってもいいけど?』

―――⋯⋯。

百十一さん。私に殿池さんを充てがおうとしてる? 

ショックじゃないといえば嘘になる……。でも百十一さんが私で面白がって遊んでいるのは、最初からわかってたことだし。

そう、だよね。別に私が誰と付き合おうが、百十一さんには関係のないこと。たった一度抱かれたくらいで、百十一さんの特別になんてなれるはずがない。

百十一さんと吉井田さんの本当の関係を知って、嬉しいと感じたのは恐らく私の勘違いだ。

百十一さんが誰と付き合おうが、誰と寝ようが関係ない。百十一さんにとっても、私が誰と付き合おうが誰と寝ようが……当然、関係ない。


 先輩の言葉がよぎる。

『不完全燃焼のまま終わったこと、僕が勝手に後悔してるだけだから。』 
  
そうだ、先輩が後悔しているなら、私がちゃんと過去の精算をしなければいけない。

先輩の心をかき乱した私が悪いのだから―――。 


 その日、仕事帰りに先輩を呼び出した。 
  
先輩からの告白を受けて3日目。カフェで待ち合わせをして、先輩に返事を伝えることにした。

「ごめん越名! 仕事が立て込んでて遅くなった!」

「いえ、全然待ってません。」

「ほんと? その割には3杯目頼んでるよね。」

テーブルの上には空のカップが2つ並んでいる。正直、2時間は待った。でも早めに返事をした方がいいと思って、帰ることはできなかった。

「先輩、この間のお返事なんですけど、」

躊躇いはなかった。先輩の目を見て、丁寧に伝えた。
 
「私でよければぜひお付き合いさせてください。よろしくお願いします。」  
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