百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
世界に1人だけの君へ
『好きです真木くん! 付き合って下さい!』
『私も! 真木君に勉強教えてもらったのが忘れられません! 好きです!』
中学1年の夏、校舎裏で2人の女子から同時に告白された。
後から聞いたところによると、中学始まって以来、これは前代未聞の快挙らしい。2人から同時に揃って告白なんて。
でもどう考えたって2人一緒とか、絶対に普通じゃない。初めてされた告白だというのに、冷静に頭が働いた。
どうせゲームみたいに思っているのだろう。そう思って、僕は笑顔で彼女たちに告げた。
『ありがとう。僕はどっちも好きだよ。どっちか一人なんて選べない。』
『そ、そんなあ。なにその答え……』
『そうだよね。僕って最低だよね。でもね、本当なんだ。本当に君たち2人とも可愛いし、どっちと付き合ってもいいって思ってる。だから僕はどちらかなんて……選べない。』
少しはにかんだ表情で、純粋を装い、辿々しい口調でそう告げた。
僕はその頃まだ身長が低かったし、父親には『出来損ない』だと言われて育ってきたせいか、内面では常に自信がなかった。
でも祖父と父親の事務所に出入りする大人への対応には慣れっこだったため、外面だけはいつも笑顔を貼り付けていた。
つまり、愛嬌のある、卑屈たっぷりの人間に育ってしまったというわけだ。
人に嫌われることなく、でも面倒事は上手くかわして生きていきたい。そう思って2人の告白を受け流した。つもりだった。
『わかったわ! それなら私たち2人と同時に付き合ってよ!』
『うんうん! どっちも好きならどっちとも付き合って! それでいつか私の方がいいって言わせてみせるんだから!』
晴天のへきれきだった。
そんな馬鹿なと思った。女子の指にも毛が生えるくらいあり得ないと思った。
こんなのまるで、エロ漫画の世界じゃないか! 自信のなかった僕の航路が、一気に広がった。それがまだ中学1年生だった僕の、無双の序章―――。
それから僕は彼女2人と同時に付き合うこととなり、気づけばどちらともやることをやっていた。
はっきり言って、好きとかそういった恋愛感情があったかはよく覚えていない。ただ初めての“付き合う”という行為に興味津々だったのと、モテる自分に完全に酔い知れていた。
でも彼女2人と付き合うことが面倒になってきた頃、今度は校内一の美女といわれる3年の先輩に告白されて、先輩に乗り換えた。
さすが3年生の女子は言うこともやることも違う。手慣れた雰囲気がありながらも、初心な面もあって、ギャップを上手く使いこなしているなと思った。すごく勉強になった。それに年上は、僕の身体と精神を気持ちよくする方法を知っていた。
先輩の卒業と同時に別れた後は、もう僕の無双状態だった。
いつの間にか身長も伸びて、いわゆる校内一のイケメンといわれるほどになっていた。中学3年間で告白された回数は36回。それを誇りに生きていたから回数までちゃんと覚えている。
僕を隠し撮りする女子たち、僕を取り合って勝手に喧嘩する女子たち。すんげえ馬鹿だと思った。男子から疎まれることもあったけど、『可愛い女の子を紹介する』といえばすぐに僕を“親友”呼ばわりした。
親の言いつけどおり、名門高校に入ってからも無双は続行。愛嬌とポテンシャルの高さも手伝って、生徒会長にもなれた。
まさに有頂天。モテるモチベーションで首席をキープできたし、友達関係も良好。彼女ももちろん、とっかえひっかえの毎日だった。面倒になれば捨てて、面倒になれば捨てて。
そんなある日。友達から提案されたゲームが、越名と関わるきっかけとなる。
『副会長の越名和果、知ってる? バスケ部のキャプテンを振ったらしいよ。』
『うぅわマジで! 越名さん女子に恨まれんぞ!』
越名って、あの越名和果? 同じ生徒会の? あだ名が“箱入り娘”でスカート丈が常に膝ど真ん中の??
もちろん存在は知っていたが、興味はなかった。だって、会計が作成した会計簿や書記の議事録、僕が作った提案資料全てを確認する女だぞ? 嫌味なくらい確認してから顧問に回す。絶対に関わりたくないタイプ。
『真木〜、お前ならいけんじゃね?』
『へ? なに、なんの話?』
『だーかーらー、越名さんを堕とすって話よ。』
他校にもファンがいるバスケ部キャプテンが振られたんだろ? そうか、それなら僕は、五分五分といったところかな。
『さすがに真木なら堕とせんだろ! まあ本気になられても困るだろうけど。』
『あ、はは。どうだろうね。』
やりたいことも、欲しいものも簡単に手に入ることにちょうど飽きてきた頃だった。
面白半分に、越名にちょっかい出してみたのが僕のゲームの始まりだった。
『越名。悪いんだけど、今度のリサイクル活動に向けて資料をまとめたいんだ。残って一緒に手伝ってくれる?』
『はい。もちろんです。』
別に一人でできるような仕事も、全て越名に手伝ってもらい、なるべく2人だけの時間を作った。
密室に男女が2人きりなんて、嫌でもそういう雰囲気になるはず。すぐにはならなくとも、2人きりの時間を続けていれば簡単に女子は意識して、気づけばキスしてる、なんてのはよくあること。
ほら、こうして視線を合わせるだけで
『さすが越名。全部修正してくれたんだね。ありがとう!』
『いえ。とんでもありません。』
ストレートヘアで常に姿勢が真っ直ぐの越名。一ミリも乱れのない彼女の性格は、日本兵士でいうところの軍曹のようだった。
キスどころか、視線を合わせればミスばかり指摘された。
僕が作成した過去の資料をさかのぼって修正された時は、コイツは一生独身を貫くタイプだと思った。正直頭にきたし、一時は死ぬほど嫌いになった。それでも絶対に負の感情は表に出さないよう気をつけていた。
なにがなんでも堕としてめちゃくちゃ泣かせてやる。