百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
𝒦


 数日後。

私は真木先輩とのセックスを復習していた。

彼のセックスは、すぐに終える正二とのセックスとも、粘着質で甘すぎる百十一さんとのセックスともまるで違う。

十人十色なのはわかっていたけれど、あそこまで激しいのは少しだけ異質に感じた。そう! いうなれば、あれはきっとアブノーマルだ!

むずかしいな。今後、どう先輩とお付き合いしていけばいいのか。せめて、こういう話ができるお友達がいればいいのだけど……って、できるわけないない!

 「あん。あなたは、確か、」

「あ、お、おはようございます! 越名です。BKG株式会社の越名和果と申します。」   

「そうそう。越名サンだったわね。上にある派遣会社で人材コーディネーターしてる吉井田です。」

「改めまして、よろしくお願いします。」 

ビルのロビーで、吉井田さんと朝の挨拶を交わす。

今日も大変美しい吉井田さんは、髪をまとめて白いパンツスーツを着ている。背も高いし脚も長い。私が隣に並ぶのがおこがましいとすら思えてしまう。

エレベーターの中に入れば、吉井田さんの柑橘系フローラルの香りが鼻をついた。

「そうえいばこの間、ちょうどこういう個室でね、百十一君とあなたのこと話してたのよ。」

「え。私のこと、ですか?」  
   
「うん。あなたの、純粋で真面目そうなとこ、意外と計算高いよねって。」

まさか吉井田さんに話してもらえるとは思わず、朝から晴れやかな気持ちになる。

こんな綺麗な人に話しかけてもらえるなんて、今日はいい日なのかもしれない。

「私、真面目とはいわれますが、純粋かどうかは。婚約者に浮気されて、婚約破棄してますし。」

「それはあなたが純粋だから浮気されるのよ。」

「そうなんですか!?」

「それと、今私が言った言葉が嫌味とも気付かないあたり、純粋を通りこしてKYともいうわ。」

「KYって、あれですね! 『空気読めない』っていうあれですね?! なんだか懐かしい響きです。」   
 
「ちょっとあなた! まさかすでに“KY”って略語が古いとでもいうの?! 私が古いとでもいうの?!」

「いえ、とんでもないです! 吉井田さんは令和のアイドルにも勝るとも劣らない、美しい女性です。」
 
「劣りもしないけど勝りもしないってこと?!」

こんな風に距離を詰めて話してもらえるなんて。信じられない!
 
会社のある6階に着けば、吉井田さんが“開”を押しながら私を見た。

「それと、今日の夕方、うちの紹介でバイトがそっちに行くから。よろしく。」

「ああ! 今日からでしたね! 百十一さんのアシスタントの方が来るの。」

「あと、修多良君にも、よろしく……。」

「え?」

エレベーターが閉じる間際で、吉井田さんがつぶやいた。百十一さんじゃなくって、修多良さんによろしく?

 
 社内に入れば、普段は始業ギリギリにしか来ない百十一さんが、すでにミーティングをしていた。

ブランディング動画受注を想定し、工数の見積を戦略課の課長と話し合っているらしい。新しく人手が増えるからだろう。

百十一さんて、意外にも仕事にストイックだよね。今回のバイトを雇う方針は、中長期計画にあったブランディング動画受注の頓挫を回避するためなのだとか。 

なんだかんだ百十一さんは、熱意に溢れる優秀な人材なのだろう。パーテーションの向こうから聞こえる百十一さんの低くて太い声に、なぜだか熱くなった。
< 57 / 80 >

この作品をシェア

pagetop