百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
 夕方。新人さんは私が案内役を務めることとなり、百十一さんと私で彼を出迎えた。

しかし吉井田さんに連れられてやって来た専門学生のバイトは、なんと髪が深緑色だった。

しかもやたら目が座っている。こちらがお辞儀しても、深みのない会釈。  

厳しく言及すべきかとも思ったけれど、今どき古い会社だと思われるかもしれない。それに彼の仕事は接客じゃない。Webデザイナーのアシスタントだ。我慢我慢……。

「初めまして。BKG株式会社の越名と申します。」
「どうも若造。俺が今日からお前を指導するWebデザイナーの百十一です。おっと、名刺デスクに置いてきちゃったわ。」

私だけ吉井田さんとバイトの彼に名刺を差し出す。再び彼を見て、注意したい気持ちを抑える。じっと若い瞳が私を見つめ返した。

「和果、ちゃん。よろしく。」

「え?」

彼が、『和果ちゃん』と私を名前で呼んだ瞬間、百十一さんの手が彼の頭をチョップした。
  
「ごら"若造。名前呼びたあやるじゃねえか。」
 
褒めてどうするんですか。
 
「ちがう、ええと。越名、さん。よろしく、お願い、します。」

「ええと。はい。よろしくおねが……って、え……?」

吉井田さんに渡された資料を見返せば、そこには、“飛馬(ひうま)星志(ほし)”と書かれている。

キャップとマスクがないから気付かなかった! 温泉地で助けてくれた、星志(ほし)さんだ!

「う、うそ。星志、さん? 星志さんなんですか?!」

「うん、はい。」

辿々しく返事をした星志さん。意外にもかわいい顔をしていて驚いた。

「……あい、待ちな越名。どういうことだよ? 知り合い?」

「あの。はい、まあ。」

「生き別れた弟だったら許してやる。」   
 
「え、えっと、ですね。実は、先週温泉地に行った時に知り合いまして。」

「あ"? 温泉だぁ?」
 
隣に立つ百十一さんから心の声が聞こえてくる。『越名なんかが温泉とか行くの?』と。

「へえ? 越名さん、独り寂しく温泉でも行ってたの?」

吉井田さんにそう聞かれて、『そうです』と返そうと思った。

でも代わりに星志さんが答えてしまったのだ。

「ちがう。和果、ちゃん、カレシと、温泉来てた。」

「…………は?」

「でも、途中ではぐれて、僕が、この僕がね。和果ちゃん、助けまし、た。」

百十一さんと吉井田さんに不審な目を向けられた。

「越名。カレシって、なに?」
< 58 / 80 >

この作品をシェア

pagetop