百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
そしてまだ学生の飛馬星志さんが、百十一さんの話についていけているのが凄い。
 
デザイン関係の資格だけじゃなく、クリエイター関係やビジネス関係の資格まで取得しているだけのことはある。 

中学時代のいじめから、高校は通信制で単位を取得したようで、資格を取得する時間があったらしい。 
 

 もし今、百十一さんに話かければ、絶対にカレシのことを聞かれるだろう。きっと、根掘り葉掘り、私を面白がるような顔で……。

話しづらさを感じ、その場を離れた。どうせすぐにバレることなのに。

私、百十一さんに真木先輩とのこと、知られたくないと思ってる。
  


 

 越名が不安そうにこっちを何度か覗いている。

あれだ。きっと俺がどうしようもない人生論を、星志に教えているのだろうと心配しているのだ。

てか誰だよカレシって! 少なくとも俺じゃねえよなあ? 俺今まで女と旅行なんかしたことねーもん。

はあ。てかカレシで思い当たるのなんて一人しかいねえだろ。 

「百十一、さん。それ、ボールペンじゃ、ない。」

「へ?」

星志に言われて自分の手を見る。ボールペンでざっと下書きを描いていたつもりだった。でも自分の手にはプリッツ。どうりでラフ案が上手くまとまらないわけだ。
 
「あの。それって、大事な、資料じゃ……」
 
星志の声が、若干震えている。俺は修多良に渡された受注資料に、コーヒーをこぼしていた。 

「ごめん星志。俺、人生詰んでるわ。」

「大丈夫、です。僕も何度か、じんせい、終わったって、思ったこと。あ、ったけど……今生きてるから。」 

「……」 

20才の男に、人生論を語らせちまった。

俺は基本いじめる方だから、いじめられる側の気持ちなんてわかんないけど、星志の言葉にはやたら重みを感じた。

深緑色の髪した頭を適当に撫でてやる。

「そう、だよな。こんなことで人生詰んでちゃ駄目だよな俺。」

「なにに、そんなに、ヘコんでた、の?」
 
「好きな女に振られた。多分。」

「百十一さん。そんなにかっこいい、のに。フラれた、の?」

「おう。多分な。」

「僕、推しに、フラれたら、きっと生きてけない。」

星志が、鞄の中からそこそこでかいぬいぐるみを取り出した。全身ピンク色した生物……むしろ珍獣?

「なんだ、それ。」
「これ、僕の、推し。セルフィー。」

ヌイ活? 推しっていうからもっと人間ぽいキャラもの想像してたんだけど。どっからどうみてもウーパールーパーじゃねえか。

「これ。近くの、小さな水族館に、いる子。週に、4日は、通って、る」

「マジか。お前の彼女ウーパールーパーか。週4も会って重くなんねえの?」

「うん。むしろ、もっと推したい、くらい。」

「あそう。」     
  
「見て。これ、和果ちゃんに、似てる。ほら、」

「ぶふッ」
  
いや、俺もちょっと似てるかなって思ったけども。越名がメキシコサンショウウオとも称される両生類に似てるって、ウケるな。
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