百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。

魔のトライアングルは夕暮れ時に

 越名のカレシがどうとか、越名のことは俺には関係ないとか、越名に言いたいことをぶつけられて思考が狂っていた。
 
俺ファーストな俺は、理不尽な言葉をぶつけられると思考がぶっ飛ぶ癖がある。

でも越名にキスした瞬間、怒りの感情が一気に吹っ飛んだ。

越名は抵抗するでもなく、ただ『スマホを返せ』というばかりで走って逃げる素振りもみせない。加え、俺のキスを受け入れていた。

無理にでも手に入れようとしていた俺の思考が、越名の柔らかい唇に溶かされていった。

めちゃくちゃ好きだと思った。ここから逃がしたくないと思った。でも実際やったら嫌われると思った。だからしない。


 越名の病院に連れ添えば、疲労による風邪だということがわかった。免疫力が低下しているらしい。水分とって大人しくしていれば2、3日で治るとのことだった。

とりあえず再び越名を寝かせて、俺は午後から出勤した。


 出勤すれば開口一番、修多良につかまり、糸藤ちゃんにもからかうように背中を叩かれる。
 
「百十一! 越名さん連れ去ってんじゃないよ!」
 
お〜い人事部の課長、口軽すぎやしませんかぁ〜。  

「どういうことだよ百十一〜。昨日の帰り越名さんを誘拐したって?」

「越名さん誘拐罪で捜索願い出されるとこだったんじゃないの?」  
  
「まあ俺は週に一度の面会くらいは行ってやるよ?」

「私は行かないよ? 忙しいから。」
 
修多良と糸藤ちゃんに、ハイハイと軽くあしらうも、2人からそれぞれ仕事の書類を渡されて益々眉間にシワが寄る。

俺専用の個室は、システム部のある事務室内に位置する。事務室入ってすぐにある円卓のテーブルに座らされて、修多良と糸藤ちゃんに挟まれる。 

「で。実はさっき、真木行政書士事務所の真木さんが来たんだけど、越名さんと全く連絡つかない上に、今朝も出勤してないから焦ってる様子でさあ。」

「朝早めに電話入れたじゃん。俺んちで看病してるって。そういう大事なことは課長から聞いてねえの?」

「聞いてるって。だから適当に言っといたよ。『昨日帰る途中で倒れたから、友達の家で看病されてる』って。」

「友達かよ俺」
  
「てか百十一、真木さんと越名さんが付き合ってるって知ってたの?」

糸藤ちゃんがテーブルに腕を乗せて、横から俺をニヤニヤと気味の悪い唇で見てくる。

「知ってたよ。知ってたから俺が連れ帰ったし。」

「え。お前いいの!? それって完全に略奪じゃん!」
   
細目の修多良が、珍しく目を見開いて驚いている。それに反し、糸藤ちゃんは面白そうに俺の肩を叩いた。
 
 「よく言った百十一! それでこそ男!!」

「なんだよ? もういいだろ? 略奪宣言したんだからいい加減解放してよ。」 

略奪したくもなるわ。真木からはやべぇ臭いがプンプンするし。
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