百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
夕方、星志がバイトに来て、2人で下着メーカーから依頼された案件に取り組む。ブルーライトカットの眼鏡をかけてビシッと今回の目的を伝えた。
「今回起爆剤になるようなモデルの起用はない。つまりデコルテの画像とお前のセンスだけで、いかに客を惹き込むかがポイントだ。」
「了。」
円卓テーブルに星志用のノートPCを与えて、すぐにデザインの確認が出来るようビジネスチャットでやり取りする。
システム部の集中力を削がないためにも、基本的にはチャットでやり取りすることを教えた。
《ごめんホシ。俺あと30分で帰るわ》
〈わかりました。ワカちゃんが今日お休みなのとなにか関係があるんですか?〉
《お前、チャットの方がやりずれえな》
短時間のバイトだとしても、Webデザイナーをもう一人増やせて本当に良かったと思う。こういう非常時に仕事を任せられるのはとても助かる。
帰り。真木と話をすべきかとも思ったが、風邪で寝込んでいる越名のことが気がかりですぐに帰ることにした。エレベーターの“下”ボタンを押し、開くと同時に早々と乗り込む。
今からクライアント先にでもいくのか、キャメル色のスーツに身を包む吉井田が乗っていた。
「あん百十一君。今から打ち合わせ?」
「いや、もう帰るとこ。」
「えっ、早くない?! くっそ羨ましいんだけど。」
吉井田に言われてスマートウォッチに視線を落とすも、まだ18時にもなっていない。こんなに早く帰ることなんて今までにあっただろうか。
今の汚い家に仕事を持ち帰りたくないし、どうせ家に帰っても暇だから、普段から遅くまで会社に残っていることの方が多い。
何よりも越名を優先して真っ先に帰るとか、もう完全に越名ファースト化している。
「そういえば百十一君、クズだクズだとは思ってたけどやっぱり思ってた以上にクズね〜。」
気だるそうに話す吉井田のヌーディーなネイルが目に付く。
「はあ? てめえにだけは言われたくないんですけどー。」
「百十一君、越名さんのこと“賭けゲーム”に使ってるらしいじゃない。さすがに越名さんが可哀想。」
「はい?」
「私ね、最初は越名さんみたいな大人しくて真面目な子、合わないだろうなって思ってたんだけど、さすがに同情しちゃう。いつまでも中学生みたいなことやってないで少しは真面目に恋愛したら?」
「なんで吉井田にそんなこと言われなきゃなんないの?」
「越名さんが、すごく辛そうにみえたからよ。『百十一さんに賭けゲームに使われてるだけで女としてみられてない』って。」
「…………」
嘘だろ。俺、そんなに越名を傷つけてた?
他人である吉井田からみて“辛そう”にみえたのなら、きっと本当に越名は辛かったのだろう。
別に、あんなの軽い冗談で言ったつもりだった。どうせ社内で聞かれても、軽い冗談で流されて誰の記憶にも残らないだろうと思っていたのに。
ああ、そっか。俺はこうやって知らない間に人を傷つけてるから、だからフリーランス時代によく客を怒らせてたのか。
いい大人が今になって反省する。会社に属して、ようやく気付いた。相手も自分と同じように軽く受け止めるだろうと勝手に決めつけて。言いたいことばっか言ってきたから駄目なんだ、俺。
越名が俺に靡くとか靡かないとか、そんなことばかりに焦点を当ててきた俺が馬鹿みたいじゃねえか。俺はまず越名に謝らなきゃいけないんだ。
それなのに越名は、俺に越名の家の鍵を預けてくれた。越名に、替えの下着や服を取りに行ってほしいとお願いされたのだ。
越名はまだ俺の家で薬を飲んで寝ている。午前中、病院行った帰りに、越名を家まで送ろうかとも思ったが、万が一、真木が越名の家に押しかけて無理させたらマズイと思ったのだ。俺の心配だけで俺の家に居てもらうことになった。
車中、越名を傷つけた一人反省会をしながらも、俺は越名を案じるお母さんか、とツッコミを入れることで締めくくった。
車を近くのパーキングに停めて、車のドアを開けたところで見知った男に遭遇する。さっき、退社間際に会いに行こうと思ってやめた相手だ。
そいつも同じパーキングに車を停めて、車から出てきたところだ。やたら長い高級車なのが鼻につくが、むしろ悪役はそういう乗り物で登場するものだと勝手に解釈する。
「今回起爆剤になるようなモデルの起用はない。つまりデコルテの画像とお前のセンスだけで、いかに客を惹き込むかがポイントだ。」
「了。」
円卓テーブルに星志用のノートPCを与えて、すぐにデザインの確認が出来るようビジネスチャットでやり取りする。
システム部の集中力を削がないためにも、基本的にはチャットでやり取りすることを教えた。
《ごめんホシ。俺あと30分で帰るわ》
〈わかりました。ワカちゃんが今日お休みなのとなにか関係があるんですか?〉
《お前、チャットの方がやりずれえな》
短時間のバイトだとしても、Webデザイナーをもう一人増やせて本当に良かったと思う。こういう非常時に仕事を任せられるのはとても助かる。
帰り。真木と話をすべきかとも思ったが、風邪で寝込んでいる越名のことが気がかりですぐに帰ることにした。エレベーターの“下”ボタンを押し、開くと同時に早々と乗り込む。
今からクライアント先にでもいくのか、キャメル色のスーツに身を包む吉井田が乗っていた。
「あん百十一君。今から打ち合わせ?」
「いや、もう帰るとこ。」
「えっ、早くない?! くっそ羨ましいんだけど。」
吉井田に言われてスマートウォッチに視線を落とすも、まだ18時にもなっていない。こんなに早く帰ることなんて今までにあっただろうか。
今の汚い家に仕事を持ち帰りたくないし、どうせ家に帰っても暇だから、普段から遅くまで会社に残っていることの方が多い。
何よりも越名を優先して真っ先に帰るとか、もう完全に越名ファースト化している。
「そういえば百十一君、クズだクズだとは思ってたけどやっぱり思ってた以上にクズね〜。」
気だるそうに話す吉井田のヌーディーなネイルが目に付く。
「はあ? てめえにだけは言われたくないんですけどー。」
「百十一君、越名さんのこと“賭けゲーム”に使ってるらしいじゃない。さすがに越名さんが可哀想。」
「はい?」
「私ね、最初は越名さんみたいな大人しくて真面目な子、合わないだろうなって思ってたんだけど、さすがに同情しちゃう。いつまでも中学生みたいなことやってないで少しは真面目に恋愛したら?」
「なんで吉井田にそんなこと言われなきゃなんないの?」
「越名さんが、すごく辛そうにみえたからよ。『百十一さんに賭けゲームに使われてるだけで女としてみられてない』って。」
「…………」
嘘だろ。俺、そんなに越名を傷つけてた?
他人である吉井田からみて“辛そう”にみえたのなら、きっと本当に越名は辛かったのだろう。
別に、あんなの軽い冗談で言ったつもりだった。どうせ社内で聞かれても、軽い冗談で流されて誰の記憶にも残らないだろうと思っていたのに。
ああ、そっか。俺はこうやって知らない間に人を傷つけてるから、だからフリーランス時代によく客を怒らせてたのか。
いい大人が今になって反省する。会社に属して、ようやく気付いた。相手も自分と同じように軽く受け止めるだろうと勝手に決めつけて。言いたいことばっか言ってきたから駄目なんだ、俺。
越名が俺に靡くとか靡かないとか、そんなことばかりに焦点を当ててきた俺が馬鹿みたいじゃねえか。俺はまず越名に謝らなきゃいけないんだ。
それなのに越名は、俺に越名の家の鍵を預けてくれた。越名に、替えの下着や服を取りに行ってほしいとお願いされたのだ。
越名はまだ俺の家で薬を飲んで寝ている。午前中、病院行った帰りに、越名を家まで送ろうかとも思ったが、万が一、真木が越名の家に押しかけて無理させたらマズイと思ったのだ。俺の心配だけで俺の家に居てもらうことになった。
車中、越名を傷つけた一人反省会をしながらも、俺は越名を案じるお母さんか、とツッコミを入れることで締めくくった。
車を近くのパーキングに停めて、車のドアを開けたところで見知った男に遭遇する。さっき、退社間際に会いに行こうと思ってやめた相手だ。
そいつも同じパーキングに車を停めて、車から出てきたところだ。やたら長い高級車なのが鼻につくが、むしろ悪役はそういう乗り物で登場するものだと勝手に解釈する。