百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
部屋の掃除よりも、髪を乾かすことよりも、もっと重要なことが私にはあるはずなのに。
真木先輩のことよりも、今は百十一さんに身を預けてしまおうと再び眠りについた。
「越名、しぬほど好き」
何度も何度も頭を撫でてくれた。
その言葉を素直に受け取りたい。真木先輩への罪悪感もなにもかも忘れて、百十一さんに騙されてもいいからこのままずっとこの場所にいたい。
次に起きれば、やたら頭が朦朧としていて呼吸するのが苦しかった。
明らかに呼吸のリズムが普段よりも早い。熱い。寒い。喉が痛い。起き上がろうと思っても身体が鉛のように重くて起き上がれない。
サイドテーブルのデジタル時計を見ようと、頑張って寝返りを打つ。すると、すでに時間は仕事の始業時間を回っていた。2度見、3度見して背筋が凍りつく。
「う、ウソでしょ?!!」
無理やりベッドから抜け出せば、やはりよろめいて膝が崩れてしまう。いつの間に寝室に入ってきたのか、百十一さんが支えてくれた。
「おい。寝てろって。お前熱あるぞ。」
「ふぇ?!」
「今日は全部オフ。オフおっふ。俺がちゃんと休み取ってやったから。安心しろって。」
「う、うそ」
横抱きに抱えられて、再びベッドに戻される。額には熱冷まし用シートが貼られた。冷たくって、気持ちいい。
「会社には、昨日の帰りにお前が駅で倒れそうになってたから、病院付き添ってうちに連れ帰って看病して今に至るって言っといたから。」
「な、なんてこと。わたし、百十一さんの家に泊まってるって、会社に報告したんですか……」
「うん。でも俺は午前休だけで午後から出勤するから。とりあえず病院だけ行っとこう。保険証ある?」
「はい……」
百十一さんにスマホを返された。画面を見れば真っ暗だ。電源を点けようかとも思ったけれど、なんとなくオフのままにしてしまった。今日は全部、オフだそうだから。
「また真木先輩に、文句言われるだろうな」
不意につぶやけば、百十一さんが顔をしかめて私と目線を合わせるようにベッドの下にしゃがんだ。
サイドテーブルにはお粥が入った器が置かれている。「慣れないことはするもんじゃねえな」、と鼻で笑う百十一のえくぼがちょっとかわいい。
お盆にすら乗っていない湯気の立つお粥は、少しだけ焦げ臭い。それでもなぜだか涙が溢れそうになった。
百十一さん、作ってくれたんだ。
「もし真木に会ったら俺から適当に言っといてやるよ。越名が高熱で寝込んでて電話出来なかったって。」
「ほんとうに?」
「ああ。本当だ。」
額から頭へとゆっくり撫でられる。百十一さんの大きな手に撫でられるの、とっても好き。
もう何もかも、なんでもいいやって、そう思わせてくれる。こんなに安心する人、きっと百十一さん以外にいないだろう。
私、この人のことを好きになりたかった。
昨日、寝言のようにつぶやいた百十一さんの告白に、素直に「私もです」って応えたかった。
でも私には懸念事項が多すぎて、素直に告白を受け取って返すことができない。
私はまだ、賭けゲームの対象ですか? 私が殿池さんに連絡先を教えたらアウトですか?
私が百十一さんに堕ちるのは、アウトなんですか?
立ち聞きなんてしなければよかった。修多良さんに、ちゃんと百十一さんのことを好きだと伝えればよかった。
真木先輩の告白を受け入れなければよかった。私がなんでも真面目に背負ってしまう性格でなければ、罪悪感を感じることもなく百十一さんに告白できていたかもしれないのに。
どうしたらいいのだろう? 私のこの気持ちは、どこにしまっておけばいいのだろう。
きっとまたすぐに掘り起こされることを期待しているのだ。
真木先輩のことよりも、今は百十一さんに身を預けてしまおうと再び眠りについた。
「越名、しぬほど好き」
何度も何度も頭を撫でてくれた。
その言葉を素直に受け取りたい。真木先輩への罪悪感もなにもかも忘れて、百十一さんに騙されてもいいからこのままずっとこの場所にいたい。
次に起きれば、やたら頭が朦朧としていて呼吸するのが苦しかった。
明らかに呼吸のリズムが普段よりも早い。熱い。寒い。喉が痛い。起き上がろうと思っても身体が鉛のように重くて起き上がれない。
サイドテーブルのデジタル時計を見ようと、頑張って寝返りを打つ。すると、すでに時間は仕事の始業時間を回っていた。2度見、3度見して背筋が凍りつく。
「う、ウソでしょ?!!」
無理やりベッドから抜け出せば、やはりよろめいて膝が崩れてしまう。いつの間に寝室に入ってきたのか、百十一さんが支えてくれた。
「おい。寝てろって。お前熱あるぞ。」
「ふぇ?!」
「今日は全部オフ。オフおっふ。俺がちゃんと休み取ってやったから。安心しろって。」
「う、うそ」
横抱きに抱えられて、再びベッドに戻される。額には熱冷まし用シートが貼られた。冷たくって、気持ちいい。
「会社には、昨日の帰りにお前が駅で倒れそうになってたから、病院付き添ってうちに連れ帰って看病して今に至るって言っといたから。」
「な、なんてこと。わたし、百十一さんの家に泊まってるって、会社に報告したんですか……」
「うん。でも俺は午前休だけで午後から出勤するから。とりあえず病院だけ行っとこう。保険証ある?」
「はい……」
百十一さんにスマホを返された。画面を見れば真っ暗だ。電源を点けようかとも思ったけれど、なんとなくオフのままにしてしまった。今日は全部、オフだそうだから。
「また真木先輩に、文句言われるだろうな」
不意につぶやけば、百十一さんが顔をしかめて私と目線を合わせるようにベッドの下にしゃがんだ。
サイドテーブルにはお粥が入った器が置かれている。「慣れないことはするもんじゃねえな」、と鼻で笑う百十一のえくぼがちょっとかわいい。
お盆にすら乗っていない湯気の立つお粥は、少しだけ焦げ臭い。それでもなぜだか涙が溢れそうになった。
百十一さん、作ってくれたんだ。
「もし真木に会ったら俺から適当に言っといてやるよ。越名が高熱で寝込んでて電話出来なかったって。」
「ほんとうに?」
「ああ。本当だ。」
額から頭へとゆっくり撫でられる。百十一さんの大きな手に撫でられるの、とっても好き。
もう何もかも、なんでもいいやって、そう思わせてくれる。こんなに安心する人、きっと百十一さん以外にいないだろう。
私、この人のことを好きになりたかった。
昨日、寝言のようにつぶやいた百十一さんの告白に、素直に「私もです」って応えたかった。
でも私には懸念事項が多すぎて、素直に告白を受け取って返すことができない。
私はまだ、賭けゲームの対象ですか? 私が殿池さんに連絡先を教えたらアウトですか?
私が百十一さんに堕ちるのは、アウトなんですか?
立ち聞きなんてしなければよかった。修多良さんに、ちゃんと百十一さんのことを好きだと伝えればよかった。
真木先輩の告白を受け入れなければよかった。私がなんでも真面目に背負ってしまう性格でなければ、罪悪感を感じることもなく百十一さんに告白できていたかもしれないのに。
どうしたらいいのだろう? 私のこの気持ちは、どこにしまっておけばいいのだろう。
きっとまたすぐに掘り起こされることを期待しているのだ。