百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
「ああー。やっぱ越名から告白したことになってんだ。」

「え?」

「うん。気に喰わないからあらかじめ言っとくと、ほんとは真木から告白したんだと。」     
   
「……はいッ?!」   
      
「文化祭の打ち上げの帰り道、真木が『付き合ってほしい』って何気なく言ったら『うちは男女交際禁止だからごめんなさい』って断られたって。」
 
「な、なんですか、それ」

「お前。真木に告られたことすら覚えてないだろ。」

「は、はい。1ミリたりとも。」
    
耳元で、百十一さんが息を殺したようにクツクツと笑い始める。なにがなんだか。はい? なぜ私が真木先輩に告白されたことになってるの?   

「え? ちょっ!! 私、告白したんですか、されたんですか?!」

「あのさあ。そんなどうでもいい記憶、どっちでもよくね? 過去の事実なんてタイムマシンが普及されてからじゃないとどうせわかんないって。」

「で、でも、それじゃあ! 私、なんで真木先輩と付き合ったんでしょう?!」

「んなもん、俺の“賭けゲーム”発言にムカついたから真木と付き合ったんだろ?」

「でもわたし、ずっと罪悪感にとらわれてたのに!! え?!」
 
「俺への当てつけってことにしときゃいいじゃん。考えすぎなんだよ越名は。」 

なんでもないように笑う百十一さんは適当そうで、やっぱりとっても思いやりのある人だと思った。    
 
私の馬鹿正直な性格のせいだとは決して言わない優しい人。そして真木先輩のことも嫌いにならないよう推し量ってくれているように感じた。

振り向いて、百十一さんにしがみついた。

この人と一緒にいたい。

「好き。」
 
「……え、」

「大好きです。百十一さん。」

こわごわとした手で私を抱きしめ返してくれた百十一さん。「まじ?」と耳たぶに寄せられた唇がささやく。   
 
それからまるで時間が停まったかのように何も発さず、しばらく私を抱きしめてくれていた。

百十一さんがいなければ知りもしなかった多くの事実。ずるずると引きずり出された感情が、私の大切な思い出となって体内に刻まれていく。

「俺、越名のアホみたいに面倒くさい性格、相当かわいいと思ってるよ。」

「ぜっーたい嘘」 

「嘘じゃないって。」

「嘘に決まってます!」 

「嘘だったら今頃修多良に2万請求してるって。」

「あ、思い出した! 百十一さん、殿池さんにちゃんと3千円払って下さいよ? 私、殿池さんに連絡先教えたんですから!」

「だからありゃ単なる軽いジョークだって言ってんじゃん!」

「ふふ、冗談ですよ。」 

百十一さんが私の首元に吸い付いてきたため、私は無理やり彼の腕からすり抜けた。
 
まだ熱っぽいせいか、足元がおぼつかずふらついてしまう。そのまま百十一さんに抱きかかえられて、ジタバタする私をよそにベッドに押し倒されてしまった。

鎖骨にキスを落とされ、シャツの中から手を入れられて胸を触られる。だから彼の髪を引っ張り全力で抵抗する。 

「ちょっ!! 私、まだ真木先輩に別れ話してません! さすがにそれはダメ!」

「お前さっき俺のこと好きって言ったじゃん。」

「い、言いましたけど、まだ私は真木先輩とお付き合いしてるんです! こういうことは別れてからじゃなきゃ!」 

「てめえ、平気で抱きついてきた癖によく言うわ。キスだってしたじゃん! キスとハグは浮気じゃないのかよ?」

百十一さんに無理矢理唇を吸われて、喋ろうとすれば思わず口を開いてしまう。

彼の舌が入り込んできて、つい熱に絆され侵入を許してしまった。すると股の間を擦るようにして、百十一さんの膝に責められた。

「んぶっ」

「じゃあさあ、俺ともアブノーマルセックスすりゃいいじゃん♪」

「ふぁ、ふぁあ?!!」

「まだ越名は真木と付き合ってるってことで、俺に無理矢理寝取とられセックスとかどうよ? ハメ撮りしてさあ」

「顔が下衆い!」

「いッッ"。痛え、マジ痛いって。」

耳を引っ張り、左脇腹に拳で応戦して、両脚で限界まで身体を締めつけてやった。

やっぱりこのデリカシーのなさだけはどう頑張っても受け入れられない! 
 
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