百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
例えアダルトチルドレンと呼ばれたって
背伸びをすると、しばらく使われていなかった関節がいくつか鳴った。
風邪もすっかり治った私は、いつもの早朝ルーティーンをこなし、1時間前出社を目標に家を出る。
百十一さんの家からうちに帰ってきたのは一昨日の夜だ。掃除をしようと気合を入れていたのに、どうやらお母さんが掃除をしていってくれたらしい。可燃ごみの袋もすでに新しいものに変わっていた。
職場の最寄り駅で降りると、隣の車両から、黒いマスクをした青年と鉢合わせた。
まさかこんな朝早い時間にいるとは思わず、すぐに気付くことが出来なかった。リュックの形を見て、星志さんだと判断し駆け寄る。
「お、はよう。ございます。和果ちゃん。」
「おはようございます! こんな朝早くにどうしたんです?!」
「ええ、と、今日は、学校休み。で、仕事も、押してる、し。朝から、出勤。」
「それにしては早すぎませんか?」
「うん。でも、はやく広告、作れるようになりたい、し。やっぱ会社は、学校で学ぶデザインとは、まったく違う、から。」
「ええと。その心意気は大変素晴らしいことだと思います。ですが、百十一さんはいつも9時ギリギリしか出勤しないんです。」
「え。」
スマホの時計を見れば、始業の9時までまだ1時間以上ある。
どうしようかと思うも、この近くにモーニングができるお店があることを思い出す。
温泉地で助けてもらったお礼にと、奢らせてもらうことにした。
オープンテラスになっていて、クロワッサンが有名な駅裏のカフェだ。早朝だというのに店内は満員。
唯一空いていた外のテラスで星志さんと対面して座る。まだ寒くない、ちょうどいい季節でよかった。
「星志さんは一人暮らしなんですよね。こっちでの暮らしには慣れましたか?」
「うん。学生寮、だけど。地元より、こっちのが……最高に楽しい。」
ゆっくりと黒いマスクを外す星志のお口が笑っている。温泉地ではあまり表情がないように思えたからなんだかほっとする。
手を合わせて『いただきます』をする彼の仕草がかわいい。つい星志さんを見つめてしまえば、「ん?」と首を傾げて見つめ返された
「あ、ごめんなさい。あまり学生さんと接する機会がないので。なんだか癒やされてしまって見つめてしまいました。」
「僕、“癒やし”、なの?」
「決して変な意味ではなくって、男性に対して失礼かもしれませんが。なんだかかわいらしくって。」
星志さんのように、まだ社会に染まっていない人を見ると、自分も何も考えずのんびり過ごせるような気がする。
「僕、もね。和果ちゃん、見てると、癒やされる。推しに、似てるし。」
「そういえば前にも、私が星志さんの推しに似てるって言ってましたよね?」
「うん。ほら、これ」
そういって、星志さんがリュックの中からピンク色のぬいぐるみを取り出す。まるで子供番組の人形劇のように、そのぬいぐるみの片手を動かした。
「見て。和果ちゃん、そっくり」
「ふッ」
私の真上から、笑いを押し殺すような声が降ってきた。自分がウーパールーパーのぬいぐるみにそっくりだと言われたことに呆然とする中、隣に立つ男性を見上げた。
風邪もすっかり治った私は、いつもの早朝ルーティーンをこなし、1時間前出社を目標に家を出る。
百十一さんの家からうちに帰ってきたのは一昨日の夜だ。掃除をしようと気合を入れていたのに、どうやらお母さんが掃除をしていってくれたらしい。可燃ごみの袋もすでに新しいものに変わっていた。
職場の最寄り駅で降りると、隣の車両から、黒いマスクをした青年と鉢合わせた。
まさかこんな朝早い時間にいるとは思わず、すぐに気付くことが出来なかった。リュックの形を見て、星志さんだと判断し駆け寄る。
「お、はよう。ございます。和果ちゃん。」
「おはようございます! こんな朝早くにどうしたんです?!」
「ええ、と、今日は、学校休み。で、仕事も、押してる、し。朝から、出勤。」
「それにしては早すぎませんか?」
「うん。でも、はやく広告、作れるようになりたい、し。やっぱ会社は、学校で学ぶデザインとは、まったく違う、から。」
「ええと。その心意気は大変素晴らしいことだと思います。ですが、百十一さんはいつも9時ギリギリしか出勤しないんです。」
「え。」
スマホの時計を見れば、始業の9時までまだ1時間以上ある。
どうしようかと思うも、この近くにモーニングができるお店があることを思い出す。
温泉地で助けてもらったお礼にと、奢らせてもらうことにした。
オープンテラスになっていて、クロワッサンが有名な駅裏のカフェだ。早朝だというのに店内は満員。
唯一空いていた外のテラスで星志さんと対面して座る。まだ寒くない、ちょうどいい季節でよかった。
「星志さんは一人暮らしなんですよね。こっちでの暮らしには慣れましたか?」
「うん。学生寮、だけど。地元より、こっちのが……最高に楽しい。」
ゆっくりと黒いマスクを外す星志のお口が笑っている。温泉地ではあまり表情がないように思えたからなんだかほっとする。
手を合わせて『いただきます』をする彼の仕草がかわいい。つい星志さんを見つめてしまえば、「ん?」と首を傾げて見つめ返された
「あ、ごめんなさい。あまり学生さんと接する機会がないので。なんだか癒やされてしまって見つめてしまいました。」
「僕、“癒やし”、なの?」
「決して変な意味ではなくって、男性に対して失礼かもしれませんが。なんだかかわいらしくって。」
星志さんのように、まだ社会に染まっていない人を見ると、自分も何も考えずのんびり過ごせるような気がする。
「僕、もね。和果ちゃん、見てると、癒やされる。推しに、似てるし。」
「そういえば前にも、私が星志さんの推しに似てるって言ってましたよね?」
「うん。ほら、これ」
そういって、星志さんがリュックの中からピンク色のぬいぐるみを取り出す。まるで子供番組の人形劇のように、そのぬいぐるみの片手を動かした。
「見て。和果ちゃん、そっくり」
「ふッ」
私の真上から、笑いを押し殺すような声が降ってきた。自分がウーパールーパーのぬいぐるみにそっくりだと言われたことに呆然とする中、隣に立つ男性を見上げた。