百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
「百十一、今日ってコースじゃないの? 勝手に頼んでいい?」
「いいよいいよ、じゃんじゃん頼んじゃって。酔いつぶれたら遠慮なく置いてくから。」
「私が酔いつぶれることなんてないけど、もし星志君がつぶれたら私が送ってくから、越名さんがつぶれたら百十一が責任持って家まで送り届けろよ?」
「はいよ課長ー。」
しれっと返事を返して、さり気なく視線を隣の和果に這わせる。
ちなみに今日もうちに泊まる手筈になっているため、周りに悟られないよう、アイコンタクトだけで意思表示を確認する。
すると和果が顔を赤らめて、一瞬だけ目を合わせてきた。なんだこれ。かわいくてたまらん。早く帰って和果に甘えたい。
「ぼ、ボス。なんか今日、ずーっと、ぼーっとしてる。」
「星志さん、“ボス”ってなんですか?」
「百十一さんにね、言われたの。『俺のことボスって呼べ』、って。」
「“ボス”って。Webデザイナーは2人しかいないのに。」
だからボスと星志の2人ってことでいいじゃねえか。俺も部下を持つのが夢だったんだよ。
6人でくだらない会話をしているつもりでも、隣にいる越名の温度が伝わってきて何度も抱きたい衝動に駆られる。
でも我慢して我慢して、火照った身体を冷ますように冷たい水に手をつけた。
「越名さん、風邪の時、百十一に襲われなかった? 大丈夫だった?」
下世話な話を平気で振ってくる修多良に、越名が困ったような笑顔で対応する。
「は、はい。百十一さんて実は優しいですから。すぐに薬買って来てくれて、お粥まで作ってくれたんです。」
「百十一、料理とかできるの。」
「さあ? 初めて粥なんてもん作ってみたけど、ありゃ料理というより実験だな。」
「そういや昔さ、バーで誘ってきた女が『体調悪い』っていうから、結局家まで送り届けるだけ届けたって百十一言ってたよなあ?」
うっ。しまった! 修多良が超悪酔いしてる! 過去のどうでもいい話を和果の前でするなよ!
肝を冷やしつつも隣の和果を見れば、笑顔で俺に言った。
「そっか。やっぱり優しいんですね、百十一さんて。」
果たしてこれは怒っているのかいないのか。
しかし今度は糸藤ちゃんが水を差した。
「そういや越名さん、昔うちの高吉が非常階段で足くじいた時、あいつの家まで送り届けたって聞いたよ。あの時高吉がすっごい感謝してたよ? 家の掃除までしてくれたって。」
「あ、ああ! そ、そんなこともありましたね……。」
はあ?! いつの話だ? 俺知らねえんですけど。システム部の高吉だあ?! ぜってーこき使ってやろ。
目の前の修多良は、「行きずりの女と会社の社員じゃ健全さが違うね。」と余計な一言を言いやがった。でも俺は断じて女の家に上がってねえよ? ほんとに家の前まで送り届けただけだし。
って、俺はなにを焦ってんだ。こんなん、ただの昔話じゃん。
斜め前でカクテルを煽る星志が、俺を見て言った。
「ボス。なんか、今日ずーっと、和果ちゃん、見すぎ。ちょっと、きもい。」
「そうだよお前。キモいんだよ俺は。」
だって俺、和果と付き合ってからさらに駄目になってるし。付き合うまで散々振り回されてきたってのに、付き合ったら付き合ったで、今度はずっと和果が頭から離れない。
好きすぎてキモいわ俺。
そんな俺と和果は、実は隣同士で座った時から、机の下で手を繋ぎっぱなしだったりする。
この温もりが、この先一生つきまとうことになるのかと思うと先が思いやられる。
「ああヤバい……駄目人間にされる。」
思わず口からでた言葉を慌てて咳払いで誤魔化し、ビールを右手だけで煽った。
左手は和果と指を絡めたまま、飲み会が終わった後も俺たちは繋がっていた。
【Fin】
「いいよいいよ、じゃんじゃん頼んじゃって。酔いつぶれたら遠慮なく置いてくから。」
「私が酔いつぶれることなんてないけど、もし星志君がつぶれたら私が送ってくから、越名さんがつぶれたら百十一が責任持って家まで送り届けろよ?」
「はいよ課長ー。」
しれっと返事を返して、さり気なく視線を隣の和果に這わせる。
ちなみに今日もうちに泊まる手筈になっているため、周りに悟られないよう、アイコンタクトだけで意思表示を確認する。
すると和果が顔を赤らめて、一瞬だけ目を合わせてきた。なんだこれ。かわいくてたまらん。早く帰って和果に甘えたい。
「ぼ、ボス。なんか今日、ずーっと、ぼーっとしてる。」
「星志さん、“ボス”ってなんですか?」
「百十一さんにね、言われたの。『俺のことボスって呼べ』、って。」
「“ボス”って。Webデザイナーは2人しかいないのに。」
だからボスと星志の2人ってことでいいじゃねえか。俺も部下を持つのが夢だったんだよ。
6人でくだらない会話をしているつもりでも、隣にいる越名の温度が伝わってきて何度も抱きたい衝動に駆られる。
でも我慢して我慢して、火照った身体を冷ますように冷たい水に手をつけた。
「越名さん、風邪の時、百十一に襲われなかった? 大丈夫だった?」
下世話な話を平気で振ってくる修多良に、越名が困ったような笑顔で対応する。
「は、はい。百十一さんて実は優しいですから。すぐに薬買って来てくれて、お粥まで作ってくれたんです。」
「百十一、料理とかできるの。」
「さあ? 初めて粥なんてもん作ってみたけど、ありゃ料理というより実験だな。」
「そういや昔さ、バーで誘ってきた女が『体調悪い』っていうから、結局家まで送り届けるだけ届けたって百十一言ってたよなあ?」
うっ。しまった! 修多良が超悪酔いしてる! 過去のどうでもいい話を和果の前でするなよ!
肝を冷やしつつも隣の和果を見れば、笑顔で俺に言った。
「そっか。やっぱり優しいんですね、百十一さんて。」
果たしてこれは怒っているのかいないのか。
しかし今度は糸藤ちゃんが水を差した。
「そういや越名さん、昔うちの高吉が非常階段で足くじいた時、あいつの家まで送り届けたって聞いたよ。あの時高吉がすっごい感謝してたよ? 家の掃除までしてくれたって。」
「あ、ああ! そ、そんなこともありましたね……。」
はあ?! いつの話だ? 俺知らねえんですけど。システム部の高吉だあ?! ぜってーこき使ってやろ。
目の前の修多良は、「行きずりの女と会社の社員じゃ健全さが違うね。」と余計な一言を言いやがった。でも俺は断じて女の家に上がってねえよ? ほんとに家の前まで送り届けただけだし。
って、俺はなにを焦ってんだ。こんなん、ただの昔話じゃん。
斜め前でカクテルを煽る星志が、俺を見て言った。
「ボス。なんか、今日ずーっと、和果ちゃん、見すぎ。ちょっと、きもい。」
「そうだよお前。キモいんだよ俺は。」
だって俺、和果と付き合ってからさらに駄目になってるし。付き合うまで散々振り回されてきたってのに、付き合ったら付き合ったで、今度はずっと和果が頭から離れない。
好きすぎてキモいわ俺。
そんな俺と和果は、実は隣同士で座った時から、机の下で手を繋ぎっぱなしだったりする。
この温もりが、この先一生つきまとうことになるのかと思うと先が思いやられる。
「ああヤバい……駄目人間にされる。」
思わず口からでた言葉を慌てて咳払いで誤魔化し、ビールを右手だけで煽った。
左手は和果と指を絡めたまま、飲み会が終わった後も俺たちは繋がっていた。
【Fin】


