百十一は思う。ある意味、難攻不落だと。
夜は更けていくばかりで、結局お風呂に入れたのは22時過ぎだった。

泊まるつもりじゃなかったのに泊まる羽目に。明日は飲み会だってあるのに、私の体力、持つかな。



 
  
 「百十一君、百十一君? ちょっと聞いてんの?!」

身体を揺さぶられて覚醒した俺は、昨夜からの記憶が一気に飛んで今に至る。

気付けば飲み会だった。俺と和果にはなんの益もない飲み会。隣の吉井田に揺さぶられていた。

しかも今日の飲み会、俺がどれだけ修多良を誘ってもスルーされたのに、越名が誘ったら来るってどういうことだよ?
  
「あ、あれ。。てか越名は?」

「おい、しっかりしろよ百十一〜。今日仕事中もずっとボーッとしてなかった?」

「そうだっけ。」

「越名さんは申請業務が押してて、糸藤課長は部長とのミーティングで押してるから少し遅れるって言ってたじゃんか!」

「へ? てか糸藤ちゃんも来るの?」

「ちゃんと人の話聞いてろよ! お前最近おかしいぞ。」       
 
ヤバい。俺、今日ちゃんと出勤してた? その記憶すら怪しいってのに。仕事してたかどうかなんてまるで覚えていない。

越名が昨日うちに泊まって、朝飯用意してくれたところまでは覚えている。炊き込みご飯に大根の漬物に味噌汁。爺さんみたいな食事だってのに、やたら身にしみる朝飯だった。

普段栄養補助食品とかビーフジャーキーばっか食ってるから、人の手作りなんて、ましてや好きな女の手作りなんてこの俺にとっては最高のビタミンだ。

そういや実家でも爺さんが簡単な飯ばっか用意してくれてたっけ。
     
「ごめんなさい! 遅くなりました!」
「失礼しま〜す。飛び入りさせてもらいまーす。」

越名と糸藤ちゃん、そしてなぜか星志まで入ってきたところで、修多良が素早く立ち上がる。

「お待ちしてました糸藤課長! まさかこうして一緒に飲めるなんて感涙です!」

「なんだそれ〜、そういって泣いてないじゃん。」           
 
「心の中では泣いてますって! 大泣きです!」

座布団の埃を手で払い、自分の隣を促す修多良。

でも糸藤ちゃんは和果との会話に夢中なようで、修多良が用意した座布団の上には星志が座った。

「あ、りがとう、修多良、さん。」
「星志君のために用意した席じゃないんだよ。」 
   
吉井田が糸藤ちゃんを見て目を丸くしているものの、糸藤ちゃんは遠慮なしに吉井田の前に座った。

「初めまして、ってビルじゃよく顔合わせてたかと思うけど。BKGシステム部課長の糸藤舞子って言います。よろしくね。」

「なっ、どっ、どうもぉ。シンコウエージェントの吉井田のどかです〜。」

吉井田がわかりやすく顔を引きつらせている。

メイクの濃い吉井田よりも、ほぼノーメイクな糸藤ちゃんの肌のが艶がある。地味でも天然素材の美人は、何歳になっても強敵なんだってのがよくわかる。吉井田の顔に書いてあるから。
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