silent frost
社長室の扉をノックする。重厚なドアを押し開けると、室内には静けさが漂っていた。
「社長、ミーティングで使用する資料をお持ちしました。」
「あぁ、すまないね。ありがとう」
笑顔で受け取るその顔。
けれど、何かが違う。
ミーティング直前の神田は、相変わらず飄々としている。
スーツのジャケットを軽く整える指先。
微かな動作にすら、揺らぎはない。
存在感だけが室内の空気を押し広げる。
書類を手渡すとき、神田の視線が私を通り抜ける。柔らかい。しかし、時折――ほんの一瞬だけ、鋭く切り込む。まるで、人の表情や思考を見透かすかのような深い闇。次の瞬間には、すぐに穏やかな表情に戻る。気のせいだ、と自分に言い聞かせる。