拝啓、愛しのパイロット様
「ほら、返すよ。俺もふざけて悪かった」
「す、すみません……」
小町は小さな声で謝ると、そそくさと身体を離し、元通り椅子に座り直した。
(キスされるかと思った)
一瞬でもなにかを期待した自分が腹立たしく思えてくる。由桔也が紳士的であればあるほど、自分の愚かさが余計に際立って、自己嫌悪に陥りそうだ。
(今はとにかく作業を進めなきゃ)
小町は雑念を振り払おうとまだ顔の熱が引かないうちに、招待状へ手を伸ばした。
なにせ三百通もあるのだ。うだうだ考えるよりも、手を動かした方がよほど建設的だ。
インクが渇いた封筒から順番に招待状を入れていき、シールで綺麗に封をする。
単調な作業が小町の波立った心を穏やかにしていった。
紙が擦れる音だけがリビングに響く中、テーブルの上に置いていた由桔也のスマホが騒がしく鳴り、着信を知らせた。
「はい、宇佐美です」
由桔也は堅苦しさが感じられる、かしこまった口調で電話に応じた。
「わかりました。すぐ向かいます」
いくつかやり取りを繰り返した末に通話を終えると、今度は小町に向き直る。
「ごめん。フライトが入った。今すぐ空港に行かないといけない」