拝啓、愛しのパイロット様
◇
「ただいま」
ダイニングテーブルの上に広げたメモを食い入るように眺めていた小町は、玄関から由桔也の声が聞こえてくるとハッと顔を上げた。
(今何時!?)
スマホを手に取ると、時刻は十時半になっていた。
たしか、残業を終え、家に帰ってきたのが八時過ぎだったはず。
夕食代わりにシリアルバーを食べつつ企画書をまとめていただけなのに、もう二時間以上も経っていたなんて信じられない。
「ここにいたのか」
由桔也がリビングに姿を現すと、慌てて椅子から立ち上がる。
「ごめんなさい。すぐ片づけますね!」
小町はテーブルの上に散らばっていたアイディアノートや付箋をかき集め、ひとつに重ね始めた。
書斎にひとりでこもっていると行き詰まるばかりで、気分転換になればとダイニングで作業していたが、裏目に出てしまった。
「珍しいな。俺が帰ってきたことに気づかないなんて。どうした?」
由桔也と顔を合わせるのは四日ぶりだ。
仕事でホノルルまで行っていたので、彼は社内コンペの開催が発表された二日前から小町が寝る間を惜しんで、企画書を考えていることをまだ知らない。
「実は今度、社内コンペがあって、私も企画書を作っているんです」
小町はノートを腕に抱えながら社内コンペについて詳しく説明した。
企画書が採用されれば、製品化が約束されること。
締め切りが一カ月後だということ。
社内コンペが小町の夢への第一関門なのだと理解した由桔也は大きく頷いた。