拝啓、愛しのパイロット様

 電車に乗る前にデパートの地下食品売り場で、白ワインとおつまみにちょうどよさそうなデリセットを購入してから帰宅の途につく。

(ちょっと買い過ぎちゃったかな?)

 ズシリと重いレジ袋を両手に抱えながらマンションのエントランスを通り抜けたときには、既に七時を過ぎていた。

 早く準備をしなければ、由桔也が帰ってきてしまう。

(おっと。その前に)

 小町はエレベーターへ向かう速度を緩め、いつも通りポストの前に立った。
 中に入っていた郵便物を手早く回収してから、今度こそエレベーターに乗りこむ。
 階数ボタンを押しエレベーターが動き始めてまもなく、はたと気がつく。

(そういえば……)

 最後に手紙が送られてきたのはいつだっただろうか。
 コンペの件で頭がいっぱいで、すっかり手紙のことが抜け落ちていた。

 なにが書かれているか、内容もろくに確認しないまま、今も書斎のデスクの上に置きっぱなしだ。

(由桔也さんが帰ってくる前に、読んでしまおう)

 部屋に到着すると、小町は買ってきたデリとワインをダイニングテーブルに置くなり書斎に駆け込んだ。

 ため込んでいた由桔也からの便りを紐解き、ひとつひとつ読み直していく。

 散歩中に遭遇したオシャレなマダムの話。
 たまたま寄ったカフェで飲んだコーヒーの話。

 いつも通りの彼の手紙に、クスリと笑みが溢れる。
< 131 / 149 >

この作品をシェア

pagetop