拝啓、愛しのパイロット様

「北海道土産。ほら、好きって言ってたから」
「あ、ありがとうございます……」

 手渡されたのは昨日空港で見かけた北海道名物のホワイトチョコレートクッキーだ。
 好きと言ったことを覚えていてくれたと感激する余裕もなく、お土産を受け取る。

(ちゃんと聞かなきゃ)

 小町は咄嗟にリビングに行こうとする由桔也のシャツの裾を掴んだ。

「あの、由桔也さんっ……」
「どうした?」

 引き留められた由桔也は不思議そうに首を傾げ、小町の次の言葉を待った。
 なんの迷いもなく真っ直ぐ見つめられて、思わずゴクンと唾を飲み込む。

(なにを怖がっているのよ?)

 きっと以前なら、彼が帰宅するなり札幌での行動の意味を問い正していただろう。
 けれど今、小町の唇は決定的な言葉を紡ぎ出すのを拒絶するように固く閉ざされている。

「お昼ご飯、準備しますね!」

 小町はかろうじてそう言うと、由桔也を追い越しキッチンまで走った。

(意気地なし)

 小町は自分を怖気づかせたものの正体に気づいていた。
 由桔也は小町が札幌に行ったことを知らないはず。

 もし小町が彼女との関係を問いたださなければ、これまで通りの生活を送るのも不可能ではない。

 もし、真相を聞き出して、本当にふたりがただならぬ関係だったら?

 恋人のように微笑み合っていた二人の様子を思い出すだけで身震いしてしまう。

 自己保身でいっぱいの自分がほとほと嫌になってくるが、とりあえず今は昼食の支度に精を出して誤魔化すしかない。

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