拝啓、愛しのパイロット様
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「ありがとうございます」
由桔也は昼食に作ったタコライスを綺麗に平らげると、食器をシンクに下げにいった。
「小町もコーヒー飲むよな?」
「はい」
そう返事をすると、由桔也は慣れた手つきでコーヒーを淹れ始めた。
数分後、ダイニングテーブルにマグカップがふたつ運ばれてくる。
「熱いから気をつけてな」
「はい」
淹れてもらったコーヒーの水面を覗き込むと、底が分からないほど真っ黒で思わず吸い込まれそうになる。
食後にふたりで何気ない会話をしながら、コーヒーを飲む時間が好きだった。
札幌出張に行く前なら、彼がそばにいるだけで安らいだ気持ちになれたのに、今は真逆だ。
そうやって俯いてばかりいたせいだろうか。
「気にしてる?」
「え?」
「そろそろコンペの結果が発表される頃だもんな」
由桔也はあらぬ方向に話の矛先を向けた。
一瞬頭の中を覗かれたのかと思ったけれど、とんでもない早とちりだった。
彼は小町の様子がおかしいことに気づいてはいても、その原因が自分にあるとは思ってもいないようだ。
「もっと気楽に構えていてもいいんじゃないか?」
「あ、はは。そ、そうですね!」
気楽に構えるなんて、どうやっても無理だ。
けれど、塞ぎ込んでいた理由を勘違いしてくれたのは助かった。
(由桔也さんを信じたい)
そう思う一方で、彼を疑う気持ちが拭えない。
失いたくないと思うのはわがままなのだろうか。
結局、その日は由桔也になにも聞けずじまいだった。