拝啓、愛しのパイロット様

「辞表はいつでも受け取ってやるよ」

 神城はそう言い残すと乾と交代するように、廊下を去っていった。

「まだ会社にいたんですね。入れ違いにならなくてよかったです!」
「あ、うん……」

 心ここにあらずの状態のまま、曖昧な相槌を打つと、乾の表情が険しいものに変わっていった。

「なにかあったんですか?神城部長と話されていたみたいですけど、なにか酷いことでも言われたんですか?やっぱり一度コンプライアンス部に相談しましょうよ!」

 乾は鼻息荒く後ろを振り返り、小さくなった神城の背中を睨みつけた。
 彼女はかねてから神城の小町への態度に不満を持っている。

 何度もコンプライアンス部に相談すべきだと主張していたが、穏便にすませたい小町の意思を尊重してくれているのだ。

「ううん。なんでもないよ!混まないうちに丸福に行こうか」

 小町は平静を装い乾の背中を軽く叩き、会社を出発するよう促した。

 幸いなことに、丸福はそれほど混み合っておらず、無事に鰻重にはありつけた。

 しかし、小町の頭の中はそれどころではなかった。

(私が今までしてきたことは無意味だったのかな……)

 神城の言葉がいつまでもリピートして、心をかき乱される。
 小町はスターライト文具で働く意義を見失いそうになっていた。

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